7.「幻想」と「忘却」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
生徒会室の近くで水季は桃李くらいの背丈の小柄な生徒を見かけた。
後ろ姿で顔は見えなかったが、緩くまとめた、長い黒髪が印象的だった。
(はて、あのような生徒、いただろうか)
水季はノックをし、英智の応答を聞き、生徒会室に入った。
部屋には英智しかいなかった。
「やあ水季、久しぶりだね」
「久しぶりだな。変わりはないようで」
英智はにっこりとする。
「今回は僕個人の頼みなんだ」
「ほう、珍しい」
水季は腰かけると、英智は紅茶を出した。
「最近転校してきた子が知り合いでね。近く、パーティーに出席することになったんだ」
「新しいプロデューサーのことか?お嬢様にあんずのようなことが出来るのか?」
水季の辛辣な言葉に英智は苦笑した。
(何かあったのかな?)
「まあ、有名なのは親で、その子は一般人だよ。水季と同じさ」
「・・・そうか」
旅館を閉めても家はそこそこ有名だった。
だけど水季も、家族もそうは思ってはいない。
一般の、ごく普通の生活をしている。
「それで、パーティーに出席するだけで何故湯治を?」
水季が聞くと、英智は自身の首筋に手をあてた。
「ここらへんを、ちょっと怪我してしまったんだ」
仕事の話が一段落すると、水季は肩の力をぬいた。
「ねえ、英智さん」
声も雰囲気もガラリと変わった。
その言葉使いに英智は一瞬、目を見開いた。
そしてふわりと微笑んだ。
「懐かしいね、その呼び方」
今、英智の前にいるのは『当主』の仮面をとった水季。
「時代は変わっていくのに、何故私たちは変わることを許されないんでしょう?」
見た目だけか弱い、隙だらけの女の子。
「駄目だよ、水季」
英智が厳しく言う。
「今は君が『当主』なんだから」
数年前。
水季が『雨の一族』の末裔だと聞いた時、英智は水季の見た目でそう言われているだけだと思っていた。
『君は神様なの?』
水季と2人だけになった時、英智は聞いた。
『そんなわけないじゃないですか』
水季は呆れ交じりに言った。
それから大きなため息をついた。
『私はただの先祖返りですよ』
自身の銀髪をいじる。
『でも君が次の当主なのは変わらないだろう?』
『銀髪で生まれただけです』
不満な声。
『銀髪の者が次の当主』
いつからか、その家ではそう言われていた。
生まれた瞬間、決められた将来。
水季はそれが気にいらないらしい。
それでも、その佇まいは次期当主としての教育が始まっているのがわかる。
それでも、
『私は、私の代でこの『役目』を終わらせる』
水季はじっと英智を見た。
『あなたには証人になってもらいます』
現在。
夢ノ咲学院、生徒会室。
最近の水季は、彼女の祖母に似てきた。
(水季は覚えているだろうか)
あの時の言葉を。
決意を。
あれ以来、その話に触れていない。
水季は『役目』を、仕事を全うしているように見える。
「英智さん」
呼ばれた英智が水季を見ると、ハッとした。
「私は、あの時の言葉を忘れていません。決意も変わっていません」
水季はあの時と同じ目をしていた。
「『終の舞』を行います」