7.「幻想」と「忘却」
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その昔、雨を降らせる家があった。
その家の者が望めば、雨が降った。
いつしか人々は『雨の一族』と呼んだ。
一族はそれを生業とせずにいた。
雨季に雨が少ない時だけ降らせ、無闇にその力を使わなかった。
ある者は畑を耕し、ある者は出稼ぎに行き、地元の人々と共に天候に従い、変わる季節を楽しんだ。
何十年、何百年と変わらず。
やがて静かに家は絶えた。
その家の歴史はそこまでだった。
時は流れ、ある旅館を経営する家で銀髪の美しい子が産まれた。
その子が成長すると不思議なことが起きた。
望むと雨が降った。
家系図を紐解くと昔、『雨の一族』の女性が嫁いで来たことがわかった。
そしてまた歴史が続いた。
だが、旅館を閉めたと同時に一族の行方はわからなくなった。
話を聞いた時、斑は信じられなかった。
(まるでおとぎ話)
奏太も、退屈そうに聞いていた。
もう二度と水季に会うことはないと思っていた。
だから夢ノ咲学院で水季を見かけた時は驚いた。
陽に当たり、輝く銀髪は本当に綺麗で、輪郭がはっきりした顔つき。
完全に浮世離れした美しさ。
英智と親しげに話しているところを見た瞬間、奏太と水季を会わせてはいけないと思った。
だから奏太に水季のことを教えなかったし、わざと遠ざけた。
水季は英智としか話さない。
見た限り、誰にも心を開かない。
心配は杞憂に終わるかと思われた。
あんずが転校してくるまでは。
2人はすぐに仲良くなり、あんずを通して他の生徒と交流し、水季はアイドル科に馴染んでいった。
そして奏太と再会した。
奏太は嬉しそうだった。
周りの大人たちは奏太と水季が一緒になることを望んでいた。
だけど、奏太にはその気がない。
それは##NAME1##も同じだった。
ならば、2人をまた離そう。
昔、千秋にしたように。
軽く挨拶して、
優しく語りかけて、
突き放す。
だけど、察しのよい水季は斑から逃げた。
水季の家を調べてわかったことに斑は少し驚いた。
一族は旅館を閉めた後も、変わらずあの土地に住んでいた。
何故、行方がわからなくなったのか?
天祥院が関係しているのか?
旅館を経営していた時から、旅館を閉めても、一族は静かに暮らしていた。
私生活が元々静かだった。
服装を変えただけで親しい人以外、旅館の人間だと気づかなかった。
だからか、深海家も三毛縞家も気づかなかった。
「三毛縞斑」
水季は斑の名前を繰り返す。
自身の記憶を探るように。
「あんず、三毛縞、先輩はどんな人だ?」
聞かれたあんずは、申し訳なさそうに首を傾げる。
「私もよく知らないの。あの人、校外、海外の仕事が多いから」
「そうか」
水季は時計を見た。
「すまない、あんず。時間だ」
「うん、またね」
2人は同時に席を立ち、別々の方向に歩いた。