7.「幻想」と「忘却」
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夏休み。
水季は友人と海に来ていた。
2人は泳ぐ目的もなく、水着に着替えず、ラフな格好でブラブラと歩いた。
近くにお店があるらしく、青年がチラシを配っていた。
「お姉さんたち~、海の家でひと休みしませんか?」
青年がチラシを水季たちに渡す。
と、
「あれ、水季さん」
「あ、アイドル科の」
「ああ!君、2winkの葵くん?」
友人も気付いた。
「はい!葵ゆうたです!」
ゆうたが笑顔でこたえる。
そのまま、ゆうたの案内で海の家に入った。
水季が海の家に来たことに厨房にいた千秋は驚いた。
友人とメニューを見て、あんずに注文する。
「かき氷2つ、お願いします」
「はーい」
ひなたが作業にかかる。
「あんず」
「はい?」
千秋があんずを呼ぶ。
「あそこにいるのは本当に水季か?」
あんずは水季が座っている席を見る。
「水季ちゃんですよ?」
「そ、そうか」
「?」
あんずは首を傾げた。
普段、水季は髪色や肌の白さもあってか涼しげな雰囲気があった。
そして表情から冷めた印象もあった。
だけど今日の水季は違った。
誰が見てもわかる満面の笑みがとても眩しく見えた。
翠は遠くから水季を見ていた。
水季は友人とかき氷を食べながら楽しそうに話していた。
(あんな顔の水季、久しぶりに見たかも)
昔は翠にもその笑顔を向けていた。
中学から見なくなった。
水季の髪のことを翠は噂で聞いた。
そしてなんとなく、気づいていた。
水季の髪と雨のこと。
水季はその後に行われたスイカ割り、ビーチフラッグ、ライブまで楽しんでいった。
水季にとって、初めてのライブ観賞だった。
そして夏休みが終わった。
9月、ガーデンテラス。
「ほう、新しいプロデューサーか」
「うん」
水季は英智とお茶をしていた。
「あんずの仕事は減りそうか?」
少々過酷なあんずのスケジュールに水季も気づいていた。
「どうだろうね」
その新しいプロデューサーが訳ありで、転校初日から校内をざわつかせ、2日目から登校拒否をするが、それはまた別の話。
噴水のところに千秋がいた。
水季に気付くと笑顔で手を振った。
「水季!」
「・・・・・・こんにちは」
水季は小さい声で言った。
水季の表情は戻っていた。
あの夏に見た眩しさが嘘のように。
「守沢先輩」
どこか冷めた声。
友人やあんずと話している時はもう少し明るい。
「なんだ?」
水季は真っ直ぐ、千秋を見た。
「私はあなたが親切過ぎるのが怖いです」
水季は何も知らない。
昨年までのアイドル科の状況。
「五奇人」の存在。
「fine」が、英智がしたこと。
知ろうともしなかった。
千秋が、水季と英智の関係を知らないわけがない。
それでも千秋は水季に優しかった。
逆恨みされてもおかしくないのに。
その優しさがずっと怖かった。
「もう私にかまわないでください」
水季は再び歩きだし、千秋の横を通りすぎた。
「!!」
水季は歩みを止めた。
千秋に腕を掴まれたから。
「はなしてください」
「水季、俺は」
水季が好きだ。
そい言った瞬間、千秋の頬に痛みが走った。
保健室。
「おお、見事は手形だなぁ」
千秋の頬を見て佐賀美は言った。
「はは」
千秋は苦笑した。
「で、何をして、あのお嬢様を怒らせたんだ?」
「・・・・・・」
千秋は答えなかった。
佐賀美もしつこく聞こうとしなかった。
(若いねぇ~)
ただなんとなく察した。
『あなたなんか嫌いだ』
水季の声がいまだに千秋の耳に響く。
夏に見た、眩しい水季の笑顔。
あれは幻だったのだろうか。
新しい『プロデューサー』のことが片付くまで、はアイドル科に来なかった。