7.「幻想」と「忘却」
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水季とあんずはすぐ仲良くなった。
2人の存在は周りを華やかにした。
あんずを通して水季は他の生徒とも話すようになった。
笑顔も増えた。
しかし、千秋にはけっして笑顔を向けなかった。
最初は戸惑い、だんだん不機嫌を顕にして。
その原因が高峰翠だとわかったのは暫くしてからだった。
廊下にバタバタと二人分の足音が響く。
「なんで追いかけてくるの!?」
「お前が逃げるからだ!」
水季が翠を追いかけていた。
「あ、水季ちゃん」
あんずの呼ぶと水季は止まった。
翠も止まった。
「あんず!・・・と、守沢先輩」
水季はあんずには満面の笑みを向けた、が、千秋には向けなかった。
というより、少し睨んだ。
「水季?」
翠は少し驚きながら水季の顔を見た。
遠くで昼休み終了を告げるチャイムが聞こえた。
「翠、私は守沢千秋が嫌いだ」
「うん、見てればわかるよ」
先程、逃げる追いかけるをしていたとは思えない程、翠と水季は落ち着いて会話をしていた。
「なんで嫌いなの?」
翠は聞いた。
しかし、水季はこたえなかった。
水季がアイドル科のライブを見た事がないと知った時、あんずは驚いた。
「本当に今まで仕事の時しかアイドル科には来なかったからな」
「誘われたりとかは?」
「・・・・・・」
『結構です』
「断ってたな」
「・・・・・・」
「仕事があったし、それに、今は翠は嫌がるだろうし」
生徒会室。
「水季の仕事とライブが偶然、度々重なるわけないよ」
英智は含んだ笑みをした。
やっぱり、とあんずは思った。
英智がわざと日程を合わせていた。
「水季は本当に最近まで他人にあまり興味を持たなかったからね。いや、家族と幼なじみにしか心を開かなかった」
あんずは首を傾げる。
「ならそんなことする必要ないのではないですか?」
英智は苦笑する。
「『興味ない』と言われるよりは良くない?」
確かに、とあんずは納得した。
水季は噴水前にいた。
昨年は校門から英智の所にたどり着くので精一杯で周りが見えてなかった。
あんずと知り合って、初めて校内が見えた。
流れる水の飛沫を水季を包む。
ゆっくりと噴水に近づいた。
「!?」
噴水の中に人がいた。
水季が離れるより先に、水の中の人物が水季の腕を掴んだ。
大きな水音と、あんずの悲鳴が響いた。
ガーデンテラス。
水季は二つ折り携帯電話のボタンをカチカチと打つ。
しかし携帯電話の画面は真っ黒のまま、うんともすんとも言わない。
カチカチ
音だけが空しく響く。
「駄目かぁ」
諦めた。
噴水に落ちた(引きずりこまれた)時、
ポケットに入れていた携帯。
案の定、水没した。
「・・・あの・・・・・・ごめんなさい」
あんずが小さな声で謝る。
「あんずは悪くない」
水季は言い、向かいに座る奏汰を見た。
「お久しぶりです」
水季が言うと、奏汰はニコリと微笑んだ。
「奏汰さん、水季さんに会ったのか!?」
斑が驚きの声をあげた。
「うるさいです。『ごろつき』」
奏汰はプイッと斑から顔をそむけた。
「・・・・・・・」
いつもなら笑って流した斑だったが、この時は何かを考えている顔をしていた。
「みけじま。水季はなにもしりません。・・・・・・だから」
奏汰は静かに声を発した。
「『みこ』に、『あめ』さんにいってはいけません」
水季と奏汰の家の関係を・・・。
『一族』のことを・・・。
その夜、水季に祖母から電話があった。
水季は昔、奏汰に会ったこと、再会したことを話した。
「日記に書いてある『深海』の親戚かなぁ?」
『多分、その家だよ』
祖母の声はどこか重く感じた。
「まあ、向こうは知らないよね」
知らなくて良い。
昔、お世話になったお兄さん。
それで良い。