7.「幻想」と「忘却」
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「天祥院英智の婚約者?」
敬人から聞いた瞬間、水季は眉をしかめた。
「噂が流れているのは事実だ」
「それが嘘であるのも事実です」
水季は言った。
普通科の校舎に戻る途中、水季は千秋に会った。
「おお、水季!」
「こんにちは、守沢先輩」
水季は会釈する。
千秋はニコニコと笑顔だが、水季はその逆でニコリともしない。
この頃は誰も水季の笑顔を見たことはなかった。
水季が千秋の横を通ろうとしたら、千秋は水季の腕を掴んだ。
「!?」
「そっちは行かない方が良い」
そう言って千秋は水季をいつもとは違う道へ連れて歩いた。
水季は決まった道しか通らない。
そして、その道で待ち伏せする輩がいた。
水季に恋心を抱く者。
純粋に話したい者。
知り合いになりたい者。
水季を利用して天祥院に取り入ろうとする者。
水季が他人に怯えているのはわかっていた。
最近はそれを面に出さなくなった。
それでも「自分に関わるな」という雰囲気を、水季を出していた。
それに気づき、怯む者もいれば、全く気づかない者もいる。
水季をそれらから少しでも遠ざけたいと、千秋は思った。
遠回りをして千秋と水季は校門についた。
「じゃあ、またな!」
そう言って千秋は最後まで笑顔を崩さず去っていった。
教室に戻った水季は先程の出来事を友人に話した。
「カッコイイ!ヒーローみたいだね!」
友人は目を輝かせたが、水季は浮かない顔をする。
「どうしたの?」
友人は首を傾げながら聞く。
「守沢先輩は親切過ぎる」
今までも水季がアイドル科の生徒に絡まれた時、然り気無く、時には強引にその場から助けてくれた。
「感謝すべきなんだけど……」
逆に恐かった。
だけど本当に親切心だったら、それは言ってはいけない。
友人も続きを聞こうとしなかった。
放課後。
千秋は雑貨屋で水季を見かけた。
水季は友人と商品を見ながら話していた。
初めて水季の笑顔を見た。
よく見ないとわからない程の儚く、薄い笑み。
少しでもいい。
自分に向けてほしいと思った。
そう強く思うようになったのは翌年、翠が入学して、あんずが転校してきてからだった。
だけど同時に、水季は千秋に嫌悪感を抱くようになっていた。