6.「作戦」と「風邪」
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数日後。
水季に呼ばれて空き教室に入った。
「おお、智!」
「あ、来たね」
「待ってましたよ」
「友也くん、創くん。どうして」
「私が手伝いを頼んだのだ」
智は3人が手に持っている物を見た。
そして周りも。
「和服。……こんなに沢山」
教室には色とりどりの着物、帯、帯締め、簪が並べられていた。
智は友也と創に目を向ける。
「次のライブで着るの?」
「ううん」
「違いますよ」
「友也、創、次に移ってくれ」
『はい』
2人が出ていくと水季は教室のカーテンを閉めた。
「水季さん?」
水季は風呂敷包みを持って智に近付く。
「着物を着るのは智だ」
「え?」
風呂敷包みをとく。
「肌着から着けるから全て脱げ」
智が肌着を着け、襦袢を羽織ると水季は目隠しに使っていた着物を下ろした。
「では締めてくぞ」
紐を持って智の前に回る。
「肉がついてきたな。…友也の衣裳では胸がキツかったろう」
「……わかってたんですね」
「まあな」
最初は違和感なく着れていたのだろう。
だから、渉も気づかなかった。
サイズ、体形がはっきりしているドレスより和服の方が合わせやすい。
着付けをしながら水季と智はいろんな話をした。
智は最初、敬人の名前を知らず、敬人も名乗らなかったので暫く『お兄さん』と呼んでいたこと。
水季は翠のことを始めから呼び捨てだったこと。
「天祥院殿が初恋?」
水季が手を止めて智を見る。
智は頷いた。
「多分、年上の人に憧れる年頃だったんです。敬人さんは最初からお兄さんって感じでした」
「わかる気がする。私も昔は翠が可愛くて仕方なかった」
『彼女の全てを愛している』
水季はいつか英智が言っていた言葉を思い出した。
(私も、あの頃は…)
水季は首を振り、作業を再開する。
伊達締めをして紺の色無地の着物をとる
着せる前に智の体にあててみる。
「そうだなぁ。帯揚げと帯締めは桜色にしようか」
ふと智は気づいた。
周りには沢山の着物と帯と小物。
色無地だけではなく、小紋や紬。
単衣に薄物、浴衣まである。
おそらく、全て水季の私物。
だが、友也と創がきれいに並べていたのにも関わらず、水季は予め智に着せる物を風呂敷に包んでいた。
(どうして?)
友也と創に連れて来られた渉と英智は智の着物姿を絶讚した。
「この色は初めて見るね」
英智が言った。
「これは祖母の祖母が大事にしていてな。私も陰干しの時しか見なかったのだ」
「そんな大切な着物、私が着て良いんですか?」
「勿論だ」
水季は智の肩に優しく手を置いた。
そして耳元で呟く。
途端、智は頬を染め、目を輝かせた。
「どうしたの?」
英智が聞くが、智は何も言わず、首を横に振る。
「水季、何を言ったの?」
「秘密だ」
水季は部屋の角、布で仕切られたスペースに案内した。
「ここで待っていてくれ。此方が良いと言うまで出ては駄目だぞ」
男性陣が別室に入るのを確認すると水季は智に向き直る。
「もうすぐ鬼龍先輩が来る」
「え!?」
智は驚く。
彼女にとっては予想外だった。
「な、な、何故ですか!?」
「その姿を見てもらう。さっきも言っただろう?」
水季はニヤリとする。
「む、無理です~!」
「智、逃げようとしてるね」
布の隙間から様子を見ていた友也が言った。
「なんだか転びそうです」
創も心配しながら言った。
歩幅が狭い着物。
洋装のように走れず、戸惑う智。
結局、転びそうになり、水季に支えられ、そのまま拘束されてしまった。
ガラッと教室の扉が開いた。
『来た!』
友也と創が声をひそめながら言った。
水季に呼ばれた紅郎が敬人と共に教室に入ってきた。
2人とも室内を見て驚いた顔をしていた。
「鬼龍先輩、来てくれましたか」
水季が声をはずませながら言った。
「呉服屋でも始めるのか?」
敬人が聞く。
「まぁ…」
水季は曖昧にこたえる。
紅郎は着物姿の智を見る。
「着物か」
一枚手にとり、智に近付く。
「こっちの色の方が良いな」
「ほ、本当ですか?」
智は頬を染めた。
2人は帯飾りや簪を見てまわる。
淡々と会話をする。
きっと普段もこうなのだろう。
何だか微笑ましい。
だが、此方が聞きたい言葉が一向に出てこない。
痺れを切らした水季が仕掛ける。
「鬼龍先輩、智は可愛いですか?」
バサッ
『!?』
別室から友也と創が飛び出した。
「駄目です!水季先輩!」
「ルール違反です!」
2人は力強く言うが、ポン、と肩に手をおかれ、ハッとする。
「どういう事ですか?友也くん」
「説明してくれるかい?創くん」
背中が寒くなった。