6.「作戦」と「風邪」
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保健室。
智はTシャツに短パン姿でベッドに寝かされていた。
傍らには紅郎がついていた。
水季は廊下で先程まで智が着ていたドレスを眺めていた。
「このドレス、どうしたのだ?」
「演劇部のだ」
敬人が言った。
『敬人さん!』
智がドレス姿で現れた時、敬人は特に驚かなかった。
『今度は何だ?』
『お、お姫様です』
智は恥ずかしそうに言い、クルリと回って全体を見せた。
ドレスは智にとても似合っていた。
『これで今度こそ紅郎先輩に可愛いと言ってもらいます!』
智は言った。
だが、敬人は止めた。
「で、おいかけっこか」
「こうなることが解ってたからな」
これが一度二度のことではないことに水季は驚いた。
「今のところ着ぐるみだけだな。倒れないのは…」
(あのリスか…)
水季は栗鼠の着ぐるみを思い出しながらドレスを畳んだ。
「演劇部に行って、智の制服をとってくるよ」
演劇部部室には友也がいた。
水季はドレスを返し、智の制服を受け取った。
「智、鬼龍先輩に会いましたか?」
「会った。が、すぐに智が倒れてしまってな」
「やっぱり」
友也はドレスをしまった。
「何故、智は鬼龍先輩に可愛いと言ってほしいんだ?」
「言われたことがないみたいです」
わからない。
「何故、鬼龍先輩にこだわる?智には彼氏がいるのだろう」
「鬼龍先輩が智の彼氏ですよ」
「え?」
水季がキョトンとした。
「ええ!?」
水季は驚き、顔を真っ赤にした。
「そうだったのか」
「まあ、智が今回みたいな行動しないと誰も信じないんですよね」
恋人として付き合いを始めたとしても2人の日常に特に変化はなかった。
時々、一緒に下校するくらい。
そんなある日、桃李が
『本当に付き合ってるの?』
と聞いた。
『付き合ってるよ』
と、智は言った。
すると今度はひなたが、
『手はつないだ?デートは?』
と聞いた。
すると智は顔を赤くした。
『そんな、まだ無理』
首を横にふる。
「それで話が進んで、智が鬼龍先輩に可愛いって言われたことがないことが………部長の耳に入ってしまって」
『智さん、彼に可愛いと言ってほしいですか?』
『はい!』
『でしたら、着替えましょう』
『?……!』
最初は町娘の衣装だった。
『ど、どうかな?』
クルリと智は回ってみせる。
『お似合いですよ』
『うん、可愛いよ』
渉と友也が言うと智はにっこりした。
部室を出て数十分後、智は戻ってきた。
敬人に追いかけられながら。
「そこからか」
「智が着替えてる間も、カーテン越しにずっと言い合いしてました」
『ただでさえ着ぐるみが噂になってるんだぞ』
『仕事に支障はありません』
『確かにないが、少しは変な行動は慎め』
『……でも』
『でもじゃない!』
シャ
着替えを終えた智がキッと敬人を睨んだ。
『兄さんの馬鹿!』
智は部室を飛び出していった。
「というのが毎回ありまして、鬼龍先輩に会えたとしても、智が緊張して倒れちゃうから…」
「なるほどな」
ふと水季は気づいた。
「智は蓮巳先輩のことを『兄さん』と呼ぶのか」
「普段は『敬人さん』って呼んでます。感情的になるとよく『兄さん』に」
「友也は智のことをよく見ているのだな」
水季がそう言うと、友也は照れたように笑った。
水季が部室を出ると、渉が此方に向かって歩いていた。
「おや、水季さん、いらしてたんですか」
「日々樹先輩、こんにちは。智の制服をとりに来ました」
「そうですか」
水季は渉を少し睨むように見る。
「日々樹先輩、智で遊ぶのを止めて下さい」
渉は笑みを崩さない。
「なんのことでしょう?衣裳なら智が自分で選んでますよ」
「周りと一緒に反応を見て楽しんでいる」
「それは認めます」
2人の距離が縮む。
どちらも視線をそらさない。
「今のままでは鬼龍先輩は智に可愛いとは言わない」
「貴女にはできると?」
渉の挑発的な口調と瞳。
受けるように水季はニヤリとする。
「言わせてみせましょう。あ、そうだ!友也を借りますよ」
紅茶部部室。
「というわけで、天祥院殿、創を貸してくれ」
「僕でお役に立ちますか?」
「勿論だ!」
英智は創に微笑みかける。
「創くん、嫌なら断っても…」
「いいえ!是非手伝わせて下さい!」
「…………」
英智は複雑な顔をした。
創の瞳は既に輝いていた。
今度は水季が英智に微笑みかける。
「更に可愛くなった智を見たくないか?」
魔女の囁きに聞こえた。