5.「好意」と「休日」
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奏汰と水季は2人が幼い頃、水族館で出会った。
キョロキョロと辺りを見回し、今にも泣きそうな水季に奏汰は声をかけた。
『どうしたの?』
『!』
『まいご?』
そう聞くと、水季は顔を真っ赤にし、奏汰を睨んだ。
『わ、私じゃない!連れが迷子なのだ!』
『そうなんだ』
奏汰は水季をじっと見た。
水季は幼いながらも浮世離れした雰囲気を持っていた。
奏汰の視線に気づかず、水季はスタスタ歩きだす。
『まって』
奏汰は水季に付いていく。
『どこではぐれたの?』
『……サメのところ』
『じゃあこっち』
サメコーナー近くの売店に水季の連れはいた。
『ありがとうございます』
水季はそう言い、奏汰と別れた。
この頃、2人はお互いの名前を名乗らなかった。
知らないまま別れた。
その夜、奏汰は家族に水季のことを話した。
『銀髪の綺麗な子』
家族はそれだけで水季だとわかった。
『縁がある』
とも言った。
『困ってたら助けてあげなさい』
今後会うかわからないのにそう言われた。
再会したのは高校に入ってから。お互いすぐにわかった。
あの頃と変わらず、それ以上に美しくなった少女。
水季の名前、普通科に通っていること、翠の幼馴染みということをあんずから聞いた。
以来2人は会えば挨拶から軽い会話をするようになった。
暫くして家族の言葉を思い出した。
『縁がある』
『困ってたら助けてあげなさい』
改めて聞いた。
昔、水季の家と交流があったこと。
水季が龍神の御子であること。
御子が悩んでいたり、困っていたら深海家が助言をしていたこと。
水族館で会ったあの時、あの瞬間、その役目が奏汰になった。
水季がどこまで知っているかわからない。
それでも水季を支えたいと思った。
水季が翠に恋心を抱いているのは周りも知っている。
だったら、同性のあんずや智に相談すれば良いような気もするが。
「水季」
奏汰が呼び掛けると水季は顔をあげる。
あの頃と同じ、不安そうな顔。
奏汰は安心させるように微笑みかけた。
美人だと噂の水季。
でも奏汰からしたら可愛い後輩。
頼ってもらえるのが嬉しかった。
胸が擽ったい気持ちになる。
「だいじょうぶですよ」
奏汰が言う。
「翠は水季から、はなれたりしませんよ」
水季は目を見開くが、ふと笑顔になった。
「ありがとう、深海殿」
「どういたしまして」
奏汰はニッコリする。
彼女の笑顔を守る為なら、何でもしよう。
その夜、水季は家の蔵に入った。
中の半分以上は古本が収められていて書庫のようになっている。
2年くらい前、そこで古い日記を見つけた。
奏汰と話した日、水季はこの日記を読む。
日記には度々『深海』の文字が書かれていた。
日記の主はこの『深海』をとても慕っていることがわかる。
奏汰と再会し、名前を聞いた時は驚いた。
縁だと思った。
日記を理由に甘えてしまった。
水季は奏汰には何でも話せた。
智が英智を兄のように慕っているのなら、水季にとってそれは奏汰だった。
奏汰の声を聞くと安心する。
言葉には勇気づけられる。
(深海殿はきっと知らないだろうな)
水季は苦笑し、そっと日記を戻した。