4.「恋愛」と「事件」
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水季友人の家は複雑な事情があった。
『不気味な銀色の髪だった』
祖父はそう言っていた。
祖父は良家の子息だった。
だけど、嫁に追い出された。
そう信じていた。
『駆け落ち!?』
『そう!』
親戚の集まりで大人たちの話を聞いてしまった。
祖父は良家の入婿だったこと。
祖母と出逢って駆け落ちしたこと。
信じていたことは全て嘘だった。
何故、祖父はそんな嘘をついたのか解らなかった。
高校で元妻の孫、水季に会うまでは…。
教室に入ってすぐに目についた、長い銀髪の美しい少女。
髪は絹糸のようにサラサラで、陽の光でキラキラと輝いていた。
あの家の人だと、すぐにわかった。
『不気味な銀髪』
祖父の言葉が甦った。
だけど実際は………
(綺麗)
少女は1人、席に座っていた。
何をするわけでもなく、ただ頬杖をついて、窓の外を見ていた。
足が自然と少女に向かう。
向かいに立った時、少女は私にようやく気づいた。
友人は自分から名乗った。
「よろしく!」
少女は驚いた顔をしたが、友人の方がその瞳に吸い込まれそうだった。
「水季だ。………よろしく」
水季はぎこちなく、答えた。
友人は水季にべったりだった。
白い肌、凛とした瞳と声。
美しい銀髪。
全てが魅力的だった。
だけど……
「水季、おはよう」
「…おはよう」
水季はいつまでもよそよそしかった。
「ねぇ水季、髪を触らせて」
「え?」
そう言うと、水季は真っ青になった。
その表情は怯えだった。
水季と同じ中学校だったという人から『嫉妬した先輩に髪を切られた』と聞き、納得した。
実際、水季はモテる。
友人に
『水季と話がしたい』
と言ってくる男子も少なくない。
他の学科からも声がかかる程。
それでも水季は特別誰かと親しくなろうとしなかった。
けっして、自分からは近寄らない。
多分、中学のことが原因なのだろう。
「ウチに来ない?」
1年の終わり頃、水季の方から誘ってもらった時は嬉しかった。
有頂天になっていた。
水季の家は古い日本家屋。
あちこちリフォームされているけど、とても歴史を感じる。
客間に通されると水季は
「お茶を煎れてくる」
と言って部屋を出た。
暫くするとスッと襖が開いた。
入ってきたのは1人の老婆だった。
「はじめまして、水季の祖母です。水季と仲良くしてくれて、ありがとう」
微笑んだ顔が水季と重なった。
「後で舞を観においで」
そう言って、水季の祖母は出ていった。
戻ってきた水季にそのことを伝えると「そう」と言った。
お茶とお菓子を並べる。
緑茶と可愛い季節の練りきり。
「これ食べたら行こう」
水季は練りきりを食べる。
友人も食べた。
練りきりは、優しい甘さで美味しかった。
お菓子とお茶を堪能し、水季の祖母が待つ別室に向かった。
そこで舞を見せてくれるらしい。
客間で座っていた祖母の横には一振の短刀があった。
私たちは距離をとって向かいに座った。
水季の祖母は礼をすると、短刀を抜き、立ち上がった。
短刀を扇子のようにクルクルと操り舞う緊張感、その姿はとても美しかった。
やがて舞が終わり、刀身は鞘におさまった。
「っ!」
瞬間、身体の力が抜けて、へたりこむように姿勢を崩してしまった。
同時に身体が軽くなっていた。
突然、水季の祖母は友人の祖父の名前を口にした。
「孫、だね?」
友人は頷いた。
どんな表情をしているかなんて、わからなかった。
「迷惑かけたね」
祖母は言った。
友人は首を横に振った。
「私は、全てを知ってます」
この人には嘘はつけない。
ちらりと水季を見た。
水季は表情を変えない。
水季も気づいていた。