4.「恋愛」と「事件」
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『気に入らない』
そう言われて、髪を切られた。
「っ!」
水季は飛び起きた。
気温は低く、吐く息は白かった。
それでも身体は熱く、汗をかいていた。
夢は中学生の頃だった。
1年生の時、放課後、クラスメイトに呼ばれた。
その女子生徒とはあまり話したことがなかった。
だから何故呼ばれたのか解らなかった。
女子生徒に連れられて屋上に行くと、更に知らない生徒たちがいた。
学年が上の先輩たちだった。
先輩たちの顔は険しかった。
話を聞くと、各々好きな人がいるらしい。
否、いた。
意中の人たちは口を揃えて
『水季のような子がタイプ』
と言ったらしい。
水季は困った。
そうは言われても、水季は男子とあまり会話をしない。
そんなアプローチを受けたこともない。
『特にその髪』
その時、水季は初めて気づいた。
相手がハサミを持っていることを。
耳障りな音がした。
直後、激しい雨が降った。
水季はずぶ濡れになりながら帰宅した。
そのまま熱を出し、寝込んだ。
その間、雨は降り続いた。
熱が引いて、起き上がれるようになると、祖母が水季の髪に気づいた。
『……水季』
水季は思い出したように短くなった部分に触れた。
『周りも揃えなきゃね』
祖母は静かに言った。
雨は止んでいた。
馴染みの美容室に閉店後に行った。
店長には前以て連絡を入れていた。
美容師の専門学校を卒業し、家業を継いだ若い女性。
店長は水季の髪を見て、一瞬顔を歪めた。
しかし、直ぐに接客用笑顔になり、水季を座らせた。
『今日はどうしますか?』
『短い所に合わせて下さい』
それだけ言って、水季は普段読まない雑誌を手にとり、開いた。
いつもは店長と話したりするが、今は何も言いたくなかった。
店長は水季の髪に鋏を入れるのを躊躇った。
祖母が、母が幼い水季の綺麗な髪に鋏を入れ、整えるのをずっと見ていた。
(水季ちゃんの髪を切りたい)
家業を継ぐことを漠然と考えていたが、決断した。
そして、専門学校に入った。
『今日は姉さんにお願いする』
水季がそう言った時には嬉しさと同時に緊張が走った。
手が震え、結果散々なことになり、結局仕上げは母がやった。
あれから練習を重ね、やっと双方満足できる仕上がりになった矢先だった。
チョキチョキ
一房切ろうとする度、手が震えた。
チョキチョキ
長い髪が床に落ちる。
泣きたかった。
「!」
店長は水季も微かに震えているのに気づいた。
(一番泣きたいのは水季ちゃんの方なのに)
チョキン
(…やっと終わった)
店長はホッと息をついた。
「できたよ」
声をかけると、水季はゆっくりと顔を上げた。
向かいの鏡をじっと見る。
「……ありがとう、姉さん」
水季は綺麗な笑みを浮かべた。
店長は水季が店を出て、見えなくなるまで涙を堪えた。
水季の両親は短くなった髪を見て驚いた。
「随分切ったねぇ」
「でも似合ってる!」
そう言ってくれたのが幸いだった。
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