3.「教室」と「環境」
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『翠!』
いつも何処からか翠を呼ぶ声がした。
声の方を向くと、美しい少女が翠に微笑みかけていた。
『水季ちゃん』
少女、水季が笑みを深める。
母親同士が仲が良かった。
小さい頃は良く母親に連れられてお互いの家に行き来した。
水季の方が歳が1つ上だと知ったのは、水季が小学校に入学した時だった。
翠が小学校に入学すると当たり前のように一緒に登校した。
それを同級生にからかわれた。
翠は少しショックだった。
『気にしない、気にしない』
水季はそう言う。
この時まで、2人の目線の高さは同じだった。
水季の祖母の仕事が何なのか、翠はよく知らない。
たまに水季の家に遊びに行くと来客があった。
その人達の相手を祖母がしていた。
『翠、外に行こう』
そうして水季は翠を広い裏庭に連れ出した。
『うちに湯治に来るんだって』
『とうじ?』
『うん』
それきり、水季は何も言わなかった。
翠が5年生、水季が6年生の頃。
『背が伸びたね』
水季に見上げられて、初めて気づいた。
クシャクシャと水季は翠の頭を撫でる。
『うわっ、やめてよ!』
翠が手をはらうと、水季はスクスク笑った。
春休み。
その日、水季は着物を着て、翠の家を訪れた。
『どうだ?似合うか?』
『う、うん』
口調や仕草はいつもと変わらないのに、ずっと大人びて見えた。
『お祖母ちゃんの仕事を手伝うことになったのだ』
『そうなんだ』
水季の両親は共働きだった。
お互いの家を行き来する時は母親が付き添ってきたが、家で水季の世話をしていたのは、ほぼ祖母だった。
水季の祖母はいつも着物を綺麗に着こなしていた。
まだ幼さはあるが、水季の後ろ姿は祖母に似ていた。
水季は翠を向かいに座った。
『翠、これからも、そばにいておくれ』
翠はキョトンとした。
『どうしたの?水季』
不思議だった。
翠にとっては、水季と一緒にいるのは当たり前だった。
『約束しておくれ』
今更、約束することでもないのに……。
『わかった』
翠は頷くと水季はフワリと微笑んだ。
その笑みが綺麗だと、初めて思った。
朝、翠は目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
「…っ………夢か」
ゆっくり起き上がり、夢の内容を思い出し、眉をひそめた。
『そばにいて』
水季との約束。
翠は膝を抱え、目をギュッと閉じた。
(……約束したのに)
離れたのは翠の方だった。
約束の後、暫く水季と会うことはなかった。
久しぶりに会った時、水季は中学校の制服を来ていた。
それだけなのに、ずっと大人びて見えた。
『翠!』
水季は翠に気づくと笑顔で駆け寄った。
『久しぶりだな』
『うん、久しぶり』
ニッコリと笑う水季。
でも、どこかぎこちなかった。
数日後、1日晴天の予報が外れ、午後から大雨が降った。
それから暫く降ったり止んだりの天気で、漸く落ち着いた頃に水季に会った。
その時、翠は驚いた。
いつも腰まで長くしていた水季の髪が、肩より短くなっていた。
『髪、切ったの?』
『ああ』
水季は笑顔だったが、少し、悲しげだった。
『失恋したの?』
翠がそう言うと、水季はキョトンとしたが、やがてクスクス笑った。
『そうではない』
いつもの、大好きな笑顔だった。
だから、気づかなかった。