15.「敬人」と「英智」
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その人は英智の父親の友人だった。
世界中で写真を撮っていた。
植物、
風景、
現地に住む人々。
どれも輝いて見えた。
その人が見たものをそのまま切り取ったよう。
その中に混ざっていた1枚の写真。
豪奢な衣装、装飾で飾られた子供の写真。
虚ろな表情をした、男子とも女子ともとれるような整った顔。
一瞬、人形かと思った。
『このこは?』
『…ああ。僕の子供です。智といいます』
その写真はすぐにしまわれた。
その時はそれだけだった。
その日は暖かく、晴天だった。
部屋の窓から眺めていた庭園の角に小さな陰が見えた。
「?」
陰がフラリと動くとはっきりと後ろ姿が見えた。
(こども?)
近所のこどもが迷い込んだと思った。
短いのが勿体無いほどの、美しい黒髪。
英智が見とれているうちにこどもの姿は消えた。
(また来ないかな)
数日後、こどもはまた庭に来た。
見つけた瞬間、英智は庭に出た。
「何してるの?」
声をかけると、こどもは振り向いた。
大きな瞳と目が合った。
(あっ!)
写真の子供だと、直ぐに気づいた。
「名前は?」
「智」
(やっぱり)
英智は笑みを深めた。
それから時々、智は庭に来た。
英智は智の話に耳を傾ける。
智は写真とはかなり印象が違った。
写真では室内で大人しくしてそうな感じがした。
実際は外で遊ぶ活発な子供だった。
陽に焼けた肌がそれを物語っていた。
英智が知らない世界を智は知っていた。
それを聞くのが楽しかった。
ザァー――
雨が降ると英智は智を木の下に連れて行った。
「最近、雨が多いね」
「もう梅雨入りかなぁ」
智は雨の日は来ない。
梅雨入りすればそれが続く。
2、3日続けば英智は退屈した。
智が天祥院家に出入りしていることを、智の父親にはすぐに知られた。
黙っていてほしいと言ったのは父親の方だった。
『あのこは聡いから、気をつけて』
この時はどういう意味かわからなかった。
演舞会の後、元気がなかった智を見るまでは。
同時に何故、智の存在が隠されているのかも理解した。
智は周りの感情を人波以上に感じとってしまう。
これから先、演舞会の時のように、智にとって辛いことが度々起こる。
間接的であったり、直接的だったり。
その時に支えてあげたい。
苦しみを和らげてあげたい。
でも雨が、それを邪魔する。
(雨でも智と話ができればいいのに)
かといって屋敷に入れるわけにはいかない。
2人の秘密だから。
そんな時、東屋を見つけた。
智に東屋のことを教えて暫くして、英智は体調を崩して入院した。
敬人に智のことを話すか悩んだが、2人を会わせたのは正解だったと英智は思った。
智はすぐ敬人になついた。
敬人も何だかんだで智のことを気にかけていた。
ある日、お菓子に飾られたリボンを智の髪に飾った。
「ありがとう」
智は目を輝かせて言った。
写真とは真逆な、シンプルな服装の智。
リボンひとつでいつもより笑顔が眩しかった。
(やっぱり、ああいう服が好きなのかなぁ?)
写真のように着飾れば、誰もが振り向くだろう。
智に夢中になるだろう。
好きになるだろう。