15.「敬人」と「英智」
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夜。
智は公園にいた。
ベンチに座り、空を見る。
月はなく、星が輝いていた。
時間を確認する。
「そろそろ行こうかな」
未だに英智と何を話せば良いかわからない。
それでも会って話をすると決めた。
その結果がどんなに残酷でも、たとえ学院に、日本にいられなくなっても受け入れる。
智は歩き出した。
「智」
「!」
名前を呼ばれ、驚いた智は声の主を見た。
そこにいたのは葵。
彼はヘッドホンもヘアピンもしていなかった。
それでも智にはわかった。
「ゆうたくん」
智は落ち着いた声で言った。
今度はゆうたが驚いた。
「どうして?」
「ひなたくんは『お兄さん』だもの。こんな時間に、こんな場所にいたら、まず怒るでしょ?」
『入れ替わり』後、智は2人を観察した。
そして幾つかの共通点と異なるところを見つけた。
「それに」
智はゆうたに歩み寄る。
「ゆうたくんは、私に触れないもの」
ゆうたが智に触れたのは、智が栗鼠の着ぐるみを着ていた時と、中庭で眠っていた智を起こした時。
あの二度だけ。
「智、学校に来てよ」
ゆうたが静かに言った。
智を見つめる。
「兄貴も、姫くんも、皆心配してる」
智は俯き、ゆうたから目をそらした。
その顔に表情はなかった。
「それは、ごめん」
「智がいないと、つまらないよ」
「…」
「淋しいよ」
智を顔を上げた。
「なんで、ゆうたくんが泣いてるの?」
太陽の下でキラキラと輝いていた少女。
だけど今、その面影はなかった。
それが、本当の智なのだと、やっとわかった。
『もう大丈夫だと、思ってたんだ』
ひなたが言っていた。
ずっと心が不安定だった、それを隠し続けてた智。
ゆうたは気づかなかった。
ひなただけが気づいた。
悔しい。
『智に伝えた。でもダメだった』
桃李が言っていた。
ひなたと一緒に『智が大好き』だと公言していた桃李。
だけど、ひなたとは違う意味だと智に伝えた。
ゆうたは未だ伝えられない。
辛い。
今も、智に触れられる距離なのに、手を伸ばすことすらできない。
智の方からゆうたに手を伸ばした。
「ゆうたくんは優しいね」
ゆうたの涙を拭った。
その手に、ゆうたは自分の手を重ねた。
「大好きだよ、智」
「うん。ありがとう。ごめんね」
智の返事はわかっていた。
ゆうたはある人物の名前を口にした。
智は目を見開いた。
ひなたも桃李も知らないこと。
「その人のことが好きなんだよね?」
最初は気のせいだと思っていた。
そう言い聞かせていた。
だけど気づいてしまった。
リスの着ぐるみ姿で、その人とぶつかった#智。
その後に見せた赤い顔。
「智」
ゆうたは頬から離れた智の手を握る。
「智の過去に何があったかは知らない。でも、智がまた学院に来るのを待ってる」
ゆうたは智から目を離さない。
「智も、ちゃんと伝えよう」
「ゆうたくんは優しすぎるよ」
智は顔をしかめ、呟くように言った。
「ひなたくんも」
初日に話しかけてくれた。
何かと世話を焼いてくれた。
「桃李くんも」
いつも笑顔で接してくれた。
学院内での英智のことを教えてくれた。
「……みんな」
「皆、智が大好きだからだよ」
今度はゆうたが智の涙を拭った。
ゆうたの顔が、あの時の英智と重なった。
忘れていた幼い頃の会話。
『ねぇ、英智』
『何?』
『どうして英智はこんなによくしてくれるの?』
『どうしてだろうね』
わからなかった小さな疑問。
やっとわかった。
今夜、全てが終わる。