15.「敬人」と「英智」
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智は英智の前では笑顔が多かった。
敬人の前では泣いてることが多かった。
「敬人さ~ん」
出会い頭に泣き付いてきた智。
「今度はどうした?」
犬に追いかけられたか?
猫にひっかかれたか?
誰かに何か言われたか?
「………」
智は敬人にしがみついたまま何も言わない。
「智?」
「……友達のお兄さんに、失礼な態度とっちゃった」
小さな声で、智は言った。
「何があったんだ?」
敬人が聞くと智はぽつぽつと話した。
友達の家に遊びに行った。
暫くして友達の兄が帰ってきた。
智は挨拶をしようとしたが、相手の顔を見た途端、声が出なかった。
心臓が激しく鳴った。
顔が熱くなった。
訳が解らず、友達の後ろに隠れてしまった。
友達に謝り、智は家を出た。
「友達は『顔、恐いでしょ?』って言ってたけど、そんなことなかった」
「ふぅん」
敬人は智の頭をくしゃっと撫でる。
「気にしなくて良いと思う」
敬人は気づいた。
智は恋をした。
だけど智はそのことに気付いてない。
『智にはまだ早い』
少し前に英智は智にそう言っていた。
(さて、どうしたものか)
敬人は英智に
『智の友達の間で恋バナが流行っているらしい』
と話した。
智が恋をしたことは話さなかった。
「…そう」
英智は何かを考えているようだ。
出会った頃は男かと思った。
でも英智の前では女の子に見えた。
英智は智をどう思っているのだろう。
ふとそんなことを思った。
『可愛い』も
『大好き』も
よく言っている。
その度に智は顔を赤くした。
英智はそれを楽しそうに、愛しそうに見つめる。
それが当たり前だった。
英智が髪にリボンを付けた頃から智に変化があった。
髪を伸ばし始めた。
服装が少しずつ変わった。
今まで智は無意識に『男のふり』をしてた。
どうして智はそうする必要があったのか、敬人は知らない。
「智は本当に可愛いよね。……だから、隠す必要があったのかな」
(隠す?)
誰から?
英智が何かを知っていることだけは解っていた。
その日、敬人と智は並んで歩いていた。
「ねぇ、敬人さん」
「なんだ?」
「この服、ボクには似合わない?」
敬人は智を見る。
智はワンピースを着ていた。
特に飾りも特徴もないシンプルなワンピース。
「前にも言っただろ。誰に何を言われても、気にするな」
「……お母さんに言われても?」
「!?」
敬人は目を見開く。
智は自分の発言に驚いたように口に手をあてた。
「っごめん。忘れて!」
智はそう言って走り去った。
敬人は暫く動けなかった。
やがて来た道を引き返した。
「英智!」
敬人は英智に智との会話を話した。
話して気づいた。
どうして今まで気づかなかったのか。
英智はいつから知っていた?
「智の母親は、智を愛してるよ。勿論、父親もね」
「じゃあ、なんで…」
「なんで智は『普通』の子供でいられると思う?」
「!」
有名人の子供を一部の人間は放っておかない。
智も例外ではなかった。
「愛してるから、隠してたんだ」
両親は『普通』の生活を望んだ。
だから森を買った。
そこに智に隠した。
「智は森の中で育てられ、外の世界は知らない。……いや、知らなかった」
小学校に入学するまで、
あの日、英智に会うまで。
淡々と、まるで見てきたかのように話す英智。
「英智、智の父親に会ったな?」
敬人は聞いた。
「会ったよ。智のことも、その時に知った」
英智は静かに言った。
英智が智と例の約束をしたのはそのすぐ後だった。
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