14.school life
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「智ちゃん!」
智を呼ぶあんずの声がした。
いつも智に優しくしてくれた。
英智と会うことを恐れていた智を守ってくれた。
でも今、あんずは智に怯えている。
(そんな顔、させたくなかった)
呼び止めようとしつつも迷っているあんずの気配を感じながら智はガーデンテラスを出た。
教室に向かう途中、智は桃李に会った。
fineのメンバー、姫宮桃李。
出会った時から何かを探るように智を見ていた。
智はそれを警戒していた。
でもそれは桃李の中では既に解決しているらしく、いつの間にか普通に話すようになっていた。
智と英智を知っている様子もなかった。
澄んだ瞳が美しかった。
無垢な笑顔が可愛かった。
『友達』になれて嬉しかった。
だから桃李の言葉と行動に驚いた。
「大好きだよ、智」
頬にキスされたと認識するのに数秒かかった。
「キスしてきたのは桃李くんが初めてだ」
智は正直、桃李が羨ましかった。
他の人に瑛智のことを話せるのが。
好きな人に好きと言えることが。
ピンポーン。
インターホンの音に智は目をあけた。
登校する気にもなれず、何をする気にもなれず、寝間着のまま朝からソファーに横たわっていた。
ピンポーン。
またインターホンが鳴る。
「………誰だろ」
そう呟くが、誰が来たか、何となく予想はつく。
ドアを開けるとあんずがいた。
「こんにちは、智ちゃん」
いつもの優しい声。
少しぎごちない笑顔。
あんずにお茶を出してから、智は着替えた。
「英智さんから聞いたよ。…ご両親のことも」
「…そうですか」
智は目を伏せた。
「オレは英智のことが解らない」
智のことが大切だから、英智が『愛してる』と言ったら智は『嫌い』になる。
どうして英智はそんな約束をしたのか、未だに解らない。
『愛してる』の意味を知らない程、子どもじゃなかった。
あんずが紙片を出すと、智は目を見開いた。
いつかの夜、智が破り捨て、忍が拾った本の欠片。
「オースティンの作品、だよね?」
智は頷く。
「英智さんが話したがってるよ」
智は俯く。
何を話せば良い?
何故あんな約束をしたのか聞くべきだろうか。
英智は智に恋愛感情を持っていない。
だから『愛してる』と絶対言わないと確信していた。
学年が上がる度、習い事が増える程、天祥院家に足を運ぶ頻度が減った。
そのうち通わなくなる、会わなくなると思った。
いつか屋敷の外で会っても、お互い知らないフリをするか、「久しぶり」と声をかけあうかもしれない。
中学生の頃、そんなことを考え始めていた。
覚悟ができないまま、あんなことになった。
「……辛い」
智は膝を抱えて丸くなった。
「智ちゃん。英智さんに会いに行こう」
智が顔を上げると、あんずの真っ直ぐな瞳と目が合った。
智は何故、あんずの存在に安心するのか解った。
あんずは今、目の前にいる智自身を見ていた。
智の両親に影響されない、数少ない人物。
「不安なら、一緒に行くよ」
優しい、力強い言葉。
「ありがとうございます。でも、ひとりで行きます」
静かな、迷いのない声。
「あんず先輩には、頼みたいことがあります」
To be continued.
7/7ページ