14.school life
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司とまた話をするようになって、智は初めて弓道部の道場に入った。
道場には誰もいなかった。
でも、いつ敬人が来てもおかしくない。
緊張で身体が震えた。
智は司に教わりながら弓に触れた。
弦を引く。
硬くて腕が震えた。
弦を戻すと同時に智の緊張は和らい気がした。
カタン。
「!」
音がして、智は反射的に司を盾にして隠れた。
聞き慣れない声がして、顔だけヒョコッと出した。
相手は伏見弓弦と名乗った。
「…fineの」
桃李が時々話していた。
だから名前だけは知っていた。
智はちゃんと挨拶しようと司の前に出ようとした。
「!」
足が止まった。
智の目は弓弦の後ろにいる人物を見ていた。
敬人がいた。
「っあ!」
すぐ隣にいる司の声が遠く聞こえた。
「智」
耳に入ってくる、懐かしい声。
「お久しぶりです。蓮巳先輩」
できるだけ笑顔をつくった。
智が道場を出ようとすると敬人が肩を掴んできた。
「いつまで逃げる気だ」
「逃げられないことぐらい解ってる」
解ってる。
もう終わりにしよう。
「!」
敬人に用事があって弓道部の道場に向かっていた英智は驚いた。
道場の方から智が速足で来た。
俯いていて英智には気づかない。
どんどん短くなる距離。
ドンッと勢いよくぶつかった。
「っすみません」
顔を上げず、そのまま去ろうとする智の肩を掴んだ。
「!」
最後に抱きしめた時に感じた、
微かな温もり、
柔らかい感触。
今も覚えている。
少し痩せた?
あの時はそう思った。
少しどころじゃなかった。
「智」
できるだけ優しく声をかけた。
智は怯えた表情で英智を見た。
「久しぶりだね」
できるだけ笑顔で英智は言った。
「お久しぶりです。天祥院さん」
震える声で智は言った。
『英智』
もう笑顔で自分の名前は呼んではくれないのかと、胸がズキリと痛んだ。
「少し話をしよう」
英智は歩きだした。
「智、おいで」
英智は笑顔を崩さず、智にだけ聞こえるように言った。
2人は並んで歩いた。
「昔はよく、庭を並んで歩いたね」
「…………」
智は俯いていて表情はわからない。
再び肩に触れると智は肩をびくつかせた。
逃げられると想い、強く掴んだら怯えた目をむけられた。
智はずっと英智に敬語を使っていた。
「話し方、戻して」
そう言うと、智は素直に従った。
智の方から隣に座るよう促したことに嬉しさを感じた。
それでもまだ、遠くに感じた。
こんなに近くにいるのに。
触れられる距離なのに。
昔、天祥院家の東屋で昼寝をしていた智は陽射しを形にしたように穏やかだった。
だから学院の中庭で眠っている智を見て驚いた。
触れたらそこから欠けて崩れてしまいそうな、ガラス細工のようだった。
どうしてそうなってしまったのか。
そうならないようにしてきたのに。
「僕が約束を破ったから?」
智は首を横に振る。
約束は関係ないと智は言った。
でもあの日を最後にしようと決めていたことには胸が締め付けられた。
英智の肩に置かれた智の手が震えていた。
「約束を破ったのは、オレの方だ」
英智の耳に口を近づける。
「I hate you」
智が言いたくなかった言葉。
英智が聞きたくなかった言葉。
『私は貴方が嫌い』