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「…が拠点を海外に移すらしい」
智の父親のことが英智の耳に入った。
一瞬、目をそちらに向けようとした。
だが、堪えて耳だけ傾けた。
「こちらの仕事も続けるそうです」
「元々、各国を廻られてる方ですから」
「今の家はそのまま残すそうで」
英智は智のことが気になってきた。
「確かお子さんは……」
(!)
英智はちらりと話している人物を見た。
どこかの雑誌の編集者。
子どもがいるとか、いないとか、あやふやな会話だ。
でも、智を知っていても不思議じゃない。
英智は智から両親のことは何も聞いていない。
だが、好奇心旺盛な智なら、きっと別の場所に行っても大丈夫だろう。
だけど、海外に行ってしまったら、もう簡単には会えない。
(…本当なら、智はどうするのかな)
直接、智の口から聞きたがった。
パーティーを抜け出した英智が東屋に行くと智がいた。
夜、寝つけない時に東屋に行くことはあったが、智がいたのは初めてだった。
「智?」
呼ばれた気がして智は目を開ける。
驚いた顔をした英智がいた。
「こんばんは、英智」
こんな時でも会えたことに喜びを感じた。
「どうしたの?こんな時間に。そんな薄着で」
英智は智に近づき頬に触れる。
冷たかった。
「温かいものを持ってくるよ」
離れようとした英智の服を智は掴んだ。
「すぐ帰るから」
智の声は震えていた。
吐く息は白かった。
服を掴む手は震えていた。
英智は智の手を包むように握った。
手も冷たかった。
ふと英智は思った。
(智の手、こんなに小さかったかな?)
出会った頃は英智の手の方が細かった。
今では簡単に智の手を包めてしまう程に大きくなった。
陽に焼けてた肌は白くなり、腕は細くなっていた。
智の伸びた髪に触れた。短かった頃と変わらないサラサラとした感触。
無垢な、大きな瞳。
『数年後も可愛いと思う』
思ったとおりだった。
望んだとおりになった。
『ずっとは無理だと思う』
そんなことはわかっていた。
その時がこなければ良いと願っていた。
英智は智を抱きしめた。
「英智?」
「大好きだよ、智」
この日が最後かもしれない。
このまま帰さず、閉じ込めてしまおうと何度も思った。
これ以上外気に触れないように。
成長しないように。
全ての愛情を注いで。
「愛してるよ」
口にした途端、後悔した。
たとえ今夜、英智が来なくても、東屋に通うのは最後しようと決めていた。
成長するにつれ、天祥院家がどういう家がわかってきていた。
『住む世界が違う』
母の言葉も理解していた。
それでも英智は『普通のお兄さん』に見えたし、智も『自分』でいられた。
だから東屋に通い続けた。
でも両親が知っていると知ったこれ以上、もうここにはいられない。
綺麗な思い出も、
英智と敬人への気持ちも、
全てここに置いていこう。
智の瞳から光が消えた。同時に涙が零れた。
「英智、私、両親と海外に行く。……だから」
サヨナラ、天祥院さん。
To be continued.
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