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また時は経ち、中学生になった智は姿見用の鏡の前に立った。
(髪、伸びたなぁ)
ショートカットだった髪は肩を過ぎ、腰に届きそうだった。
小物入れの髪飾りを眺める。
(飾りも増えたなぁ)
色とりどりのヘアゴム、ピン、ボンボン、リボン。
お気に入りは英智から貰ったリボン。
お菓子の包みに飾られた。
それを髪に飾るのはどうかと今は思うがその時は嬉しかった。
その頃から智は髪を伸ばし始めた。
鏡に映る自分をまた見る。
受験が終り、頑張ったご褒美にと買ってもらった、袖に赤いリボンが飾られた、白いワンピース。
くるりと回るとスカートの裾がふわりと広がった。
今はまだ寒いが、暖かくなったらと既に春が待ち遠しい。
ズボンばかりだった洋服棚にスカートが増えた。
近道で森の中を突っ切ることをしなくなった。
原っぱで寝転がることも少なくなった。
昔に比べれば、大人しく、落ち着いた行動をとるようになった。
男の子に間違われることもなくなった。
『女の子らしくなった』と周りから言われるようになった。
でも智はずっと女の子だった。
自分の行動がやんちゃであることは自覚していた。
それが周りが思う『子どもらしく』ても『女の子らしい』ことではないと段々気づき始めた。
感じ始めた息苦しさ。
『ボク』『オレ』から『私』に変えた。
周りが求める『女の子』を演じた。
東屋では楽でいられた。
東屋に英智がいると嬉しくなる。
外で敬人に会うと安心する。
『らしく』しなくて良い。
智が1階に降りると両親の話し声が聞こえた。
少し前、カメラマンの父が活動拠点を海外に移すと言っているのが聞こえた。
母は父についていく。
そして智をどうするか話していた。
両親は智は何も知らないと思っている。
でも智は全部知っていた。
答えは決まっていた。
日本に残るつもりでいたし、高校の入学手続きも済ました。
「……天祥院さんから離して大丈夫?」
「!」
その言葉に智は耳を疑った。
両親は知ってる。
いつバレた?
心臓が激しく鳴った。
身体が冷えた。
息が苦しくなった。
「………っ」
智は走りだしたい衝動を押さえて、静かに家を出た。
(こんな時間に来るのは初めてだな)
東屋に着くと智はメモを見つけた。
昼間、英智が置いたらしい。
「パーティーか」
屋敷から音楽が聴こえた。
智は座り、目を閉じ、美しい音色に耳を傾けた。