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智は天祥院家の庭に1、2週間に1回通った。
特に日時の約束はしてないので会えたら裏口の近くで話したり、庭を散歩したり。
最初はほんの数分だけだった。
2人が別の場所でお互いを見かけたのは月が変わった頃。
地元で有名な日本舞踊の教室。
そこの生徒達の演舞会に英智は招待された。
(あ、智だ)
生徒の中に智もいた。
誰よりも輝いて見えた。
英智は表情を変えず、それでも熱心に智の踊りを見た。
次の日、智は元気がなかった。
「どうしたの?智。昨日は疲れちゃった?」
智は首を横に振った。
俯いて、何も言わない。
「智」
英智は智を抱き寄せた。
「話して、昨日のこと」
英智が優しく言うと、智は震え、泣き出した。
「……恐かった」
智はぽつりぽつりと話した。
初めて人前で舞を披露する日。
準備をして美しく着飾った生徒たちを見て、既に心が踊りだした。
先輩に手伝ってもらいながら着付けをして、舞台に上がった。
少し緊張したが、英智を見つけた途端、嬉しくなって、楽しんでもらおうと頑張った。
無事に終えて袖に入り、気を抜いた瞬間、それは襲ってきた。
「!」
突然、気分が悪くなった。
目眩がして、立っていられなくなった。
先生は疲れが出たと智を横にさせた。
気分は悪いが、それでも先輩達の舞が観たいと言うと近くのテレビをつけてくれた。
暫く横になると気分はよくなった。
智はもう舞台に上がらないので裏を通って客席に向かった。
扉を開けた瞬間、またあの感覚が襲った。
「あちこちから声が聞こえたの」
「声?」
智が頷く。
「いろいろな声」
私語のことかと英智は思った。
舞台からは聞こえない程の囁き声はマナー違反だがよくある。
その中で気分が悪くなる内容。
自分たちの子を褒める親。
ミスに気付き、思わず言ってしまった言葉。
他人の子を非難する大人。
羨み、嫉妬する感情。
智はそれを感じとってしまった。
澄んだ場所しか知らない智には辛い時間だった。
結局、智は最後までいずに両親と先に帰った。
両親にもこの話はしなかった。
「辛かったね」
弱っている智を見るのは初めてだった。
英智は智が落ち着くまで自分より小さい身体を抱きしめ、頭を撫でた。
季節が移り、雨の匂いが濃くなった。
梅雨が始まろうとしていた。
「智、こっちに来て」
ある日、英智は智を庭の角のツルバラで被われた東屋に連れてきた。
入った瞬間、バラの香りが強くなった。
「ここなら見つからないし、雨風も凌げるね」
大人の腰くらいある壁、その上の柱をツルバラが被っている。
壁に沿って設置された座り場。
中央には小さなテーブル。
紅茶とお菓子がセットされていた。
「好きな時に来ていいよ」
東屋からは庭が一望できた。
季節ごとに色が変わるこの見事な庭を見れるとは、なんて素敵なことだろう。
「ありがとう」
お礼を言いつつ、智は不思議に思った。
「ねぇ、英智」
「何?」
「どうして英智はこんなによくしてくれるの?」
「どうしてだろうね」
英智は笑顔で言った。
その答えを聞くのはもう少し先のこと。
暫くして、智が東屋に来るとメモが置いてあった。
『うら口でまってる男の子ときて。英智』
そう書かれていた。
智は首を傾げながらも裏口に引き返した。
裏口に知らない男の子がいた。
男の子は智に気付くと近付いた。
「君が智?」
智は頷くと男の子は大きく息をはいた。
「やっと来たぁ」
男の子は智を見た。
「英智が待ってる」