12.「弓弦」と「桃李」
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弓道部道場。
弓弦は智と司、敬人を交互に見た。
智と敬人は知り合いらしい。
だが、2人の間の空気は穏やかではなかった。
何かを知っているらしい司は気まずそうにしていた。
「何故、ここにいる?」
「部活見学です」
敬人の問いに智はこたえる。
「もう帰りますけど…」
智は司にニコリと微笑んだ。
「またね、司くん」
弓弦の方を向く。
「伏見先輩、さようなら」
司も弓弦も何も言わない。
この空気の中、どう返して良いかわからなかった。
智はその空気に気付かないフリをした。
足音をたてずに歩き、敬人の横を通り過ぎようとした。
「蓮巳先輩、さようなら」
「待て!」
敬人が智の肩を掴んだ。
「いつまで逃げる気だ」
智は振り向くと同時に敬人の手をはらった。
「逃げられないことくらい、わかってる」
震える声で、はっきりと言った。
「もう何も知らない子供じゃない」
そして智は道場を出た。
ちらりと見えた智の横顔。
自分が見かけた限り、桃李には見せなかった、怯えと悲しみが混じった表情。
智は敬人を転校前から知っていた。
敬人も智を転校前から知っていた。
2人は知り合いだった。
お互い『彼』から紹介されて知り合った。
道場を出た智は走り出したい衝動を堪えて、速足に歩いた。
「………」
締め付ける胸が苦しかった。
今すぐ外してしまいたいくらい。
そのくらい動悸が速くなっていた。
何も考えられなかった。
だから気づかなかった。
自分から『彼』に近付いていることに…。
ドンッと人にぶつかってしまった。
「っあ、すみません」
相手の顔を見ず、謝罪だけして横を通ろうとした。
しかし突然、相手が腕を広げ通せんぼをした。
そのまま智の肩を掴み、完全に智をひき止めた。
「!」
智は肩をびくつかせ、相手の手を見た。
知ってる人の手だった。
「智」
名前を呼ばれ、智はゆっくりと顔を上げ、『彼』を見た。
「久しぶりだね」
『彼』は優しく微笑んだ。
智はずっと
この手から
この声から
この人から逃げていた。
「………お久しぶりです。天祥院さん」
敬人の時より、声が震えた。
見つかってしまった。
捕まってしまった。