12.「弓弦」と「桃李」
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弓弦はスケジュールの確認をしていた。
来週、智に会えることを心なしか楽しみにしていた。
桃李は相変わらず智と何処で会ったか思い出せずにいたが、今は気にしてないようだ。
弓道部の道場に着くと中から話し声がした。
弓弦は扉をそっと開けた。
「おや」
司が智に弓を教えていた。
智は司の話を真剣に聞いていた。
可愛らしい顔を引き締め、一言も聞き漏らさないように。
その姿勢は美しかった。
司に教わりながら弓を引く。
「っく」
直ぐに腕が震え、引いていた弦が戻る。
「はぁ…」
智は息を吐いて司に弓を渡す。
司は片手で弓を受け取り、もう片手で智の手をとった。
「先ずは腕力を鍛えましょう」
司が言うと智は頷いた。
弓弦は扉を開け、あたかも今来たばかりの様に装った。
「朱桜の坊っちゃま」
智は弓弦に気付くと司の陰に隠れ、ヒョコっと顔だけ覗かせた。
「貴女が智さんですね?」
智は不安そうな目で弓弦をじっと見た。
「失礼いたしました。私、伏見弓弦と申します」
「………fineの」
智はちゃんと挨拶をしようとし、おずおずと前に出た。
だが、その動きが止まった。
智は目を見開き、弓弦の後ろを見ていた。
「っあ!」
司も気付いて、声をあげた。
2人の視線が自分の後ろを向いていると気付いた弓弦は振り向いた。
弓弦の後ろにいる人物は驚いた表情で智を見ていた。
智は無意識に後ろにさがろうとした。
「智」
名前を呼ばれ、動きをとめた。
(……大丈夫、まだ大丈夫)
智は「…はぁ」と息を吐いて身体の力を抜いた。
姿勢をただし、相手を真っ直ぐ見つめ、悲しげに微笑んだ。
「お久しぶりです。蓮巳先輩」
1-B教室。
窓際の席、桃李とゆうたがひとつの机に向かい合って座っていた。
2人は頬杖をついて、ぼんやりと窓の外を見ていた。
「涼しくなったねぇ、ゆうた」
「そうだねぇ、姫くん」
少しずつ木々の葉が緑色から赤、黄、茶色と変わり始めていた。
「ねぇ、姫くん」
「何?」
「最近、よく智と一緒にいるよね?」
桃李はゆうたを横目に見た。
ゆうたも桃李を横目に見ていた。
普段の穏やかなゆうたからは想像も出来ない程の冷たい目。
何かを探るような、射抜くような。
初めて智と写真を録った時に感じた視線。
あれから時々感じていた。
(やっぱり、ゆうただったんだ)
薄々気付いてた。
直接目を見るまで確信が持てなかった。
「智のこと、大好きだから」
「しつこいと嫌われるよ」
「何もしないよりは良い」
桃李はゆうたを強く見た。
「ゆうたとは違う」
「………」
2人は暫く目を合わせていたが、やがて同時に視線を前に戻した。
「もう秋だねぇ、姫くん」
「そうだねぇ、ゆうた」