11.「零」と「泉」
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「ねぇ、智」
「何?」
「智はさ、僕のこと好き?」
「好きだよ」
智がそう応えると、桃李は足を止めた。
「それはさぁ、どういう意味で?」
桃李の問いに智は足を止めた。
振り返り、桃李を見る。
綺麗な笑みで、真っ直ぐな瞳で。
「友達としてだよ」
そう言った。
智の顔を桃李はジッと見た。
(やっぱり、僕は智を見たことがある)
でもいつ?
どこで?
そして、どうして泣いていた?
桃李の微かな記憶の中にいる智は泣いていた。
小さな肩を奮わせて、次から次へと流れる涙を拭っていた。
智は白いワンピースを着て、髪はおろしていた。
思い出した時、智が泣いている理由が思い出せなくてもどかしかった。
桃李は智に駆け寄り、ミルクティーを持ってない方の手を握った。
「桃李くん?」
「僕も友達として、智が大好きだよ!」
今、智が笑っていてくれれば。
泣かなくていいのなら。
たとえ泣いても、今ならその涙を拭ってあげられる。
ただ智を見ているだけの人物よりも。
暫くしてひとりの女性モデルが業界から姿を消した。
泉が後から聞いた噂では、そのモデルは度々仕事をサボっていたらしいこと。
そして智がヘルプで承けた仕事が所属事務所からの最後のチャンスだったらしいこと。
そして今、智はレッスン室で携帯を耳にあて、青ざめている。
室内には智と泉だけだった。
「え、なにそれ…聞いてない!」
電話の相手は例のカメラマン。
智は敬語など全く使わず会話をしている。
「……絶対母さんには言わないでよ、父さん」
低い声で脅すように言った。
泉は驚いて智を見た。
(父親!?)
名字が同じはずだ。
通話を終えると智は顔をしかめ、ため息をついて項垂れた。
「またそんな顔してぇ」
「だってぇ~」
「何が不満なわけ?」
「あの写真、表紙に使うって」
「へぇ」
智は何度か父親の手伝いをしていたらしい。
だけど小さい枠だったし、濃いめの化粧のおかげで今まで気づかれなかった。
「父の仕事は尊敬しています。だからヘルプだって承けました」
智は泉を見る。
「でも、私はもうプロデューサーです。だから、あれが最後だったんです。なのに…」
ため息をついてまた項垂れた。
「いいんじゃない?最後の記念ってことで」
「瀬名先輩」
「誰も気づかないよ。あんな厚化粧じゃ」
泉の言葉に智はクスリと笑った。
「そうですね」
智はミルクティーを一口飲んで顔をしかめる。
「嫌いなら飲まなきゃいいのに」
「嫌いではないですよ。甘過ぎ、なんです」
ミルクティーのラベルには『激甘』と書かれていた。智はちびちび飲む。
「レオがもっと太れって」
「何で?」
「さあ?」
智は首を傾げる。
泉が見た限り、智は痩せすぎな感じはしない。
コロコロと変わる智の表情。
はっきりとした物言い。
あの虚ろな目をした、濃い化粧をした少女の素顔。
相変わらずパッとしないけど、決して地味ではない。
To be continued.
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