11.「零」と「泉」
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翌日。
『話がある』
そう泉から呼ばれて、あんずは指定されたレッスン室に行った。
泉の表情は険しかった。
「1年棟に栗鼠が出ようが、2年棟に鬼が出ようが、3年棟に本物の魔王が出ようが、そんなのどうでもいい」
「…面白いこと言いますね」
泉はあんずを睨む。
「何なの?アイツ」
「アイツ?」
「智だよ。昨日、隣のスタジオにいた」
「え?何故ですか?」
「こっちが知りたいんだけどぉ」
泉はスタジオにいたカメラマンの名前を言った。
「苗字が同じなんだけど、何か知ってるの?」
「……うーん、親戚かもしれませんね」
(本当に親子じゃなくて親戚かも)
あんずは室内をトコトコと歩きまわる。
ゆっくりドアに近付く。
(智ちゃん、ごめん!)
「私は何も知りません。聞きたければ本人に直接聞いてきください」
ドアを開けると同時に部屋を飛び出した。
中庭。
智はベンチに座り、携帯の画面を忙しく指で叩いたり、スクロールしていた。
昨日、現場にいたスタッフのSNSを細かくチェックしていた。
モデルのこと、智のことは書かれていなかった。
「ん、よし」
(父さん、ちゃんと言ってくれたんだ)
作業を終えて、一息つく。
横に置いていたミルクティーをとる。
(ああ、また冷めてる。折角レオが買ってくれたのに…)
レオは智に会う度に近くの自販機でミルクティーを買ってくれる。
くれた時は温かかったミルクティー。
作業に集中している間にすっかり冷めてしまった。
一口飲む。
眉を寄せる。
「…甘い」
甘い甘いミルクティー。
昔は大好きだった。
…でも今は。
「辛気臭い顔」
突然耳に入った、低く通った声。
不機嫌そうな顔をした泉。
「そちらこそ、綺麗な顔が台無しですよ」
「生意気」
泉は智の頬をつねる。
「にゅっ!?」
「カメラマンの電話1本で来るなんて、どうゆう関係?」
「!?」
智は目を見開く。
「何のことですか?」
「昨日、隣のスタジオにいた」
「!」
智はミルクティーを横に置いて、立ち上がった。
「誰かに言いましたか?」
「……言ってない」
あんずのことは数に入れなかった。
瞬間、智は泉のネクタイを掴み、引っ張った。
「ぅわ!」
泉と智の顔が近づいた。
智は撮影の時と同じ眼をしていた。
何の感情もない、人形のような眼。
「瀬名先輩」
漂うミルクティーの香り。
それだけが、彼女が存在していると主張している。
「誰かに話したら、殺しますよ」
甘い香りの中に込められた、確かな殺意。
智は瞬きをして、ニコッと笑った。
普段と変わらない表情の筈なのに、寒気がした。
「まだ発売前なので…」
「何してるの?」
突然の声で泉は現実に戻った気がした。
智はキョトンとした顔で泉のネクタイから手をはなし、声の主をみた。
「桃李くん」
2人の前に現れた桃李もまた、不機嫌そうな顔をしていた。
「2人、キスしたの?」
『……はぁ!?』
泉と智は瞬時に離れた。顔を赤らめるどころが、逆に青ざめた。
『するわけないでしょ!』
同時に声を合わせて否定する。
智はミルクティーを持った。
「とにかく瀬名先輩、他言無用でお願いします」
「…まあ、いいけど」
もう会話は終わりというように智は泉から離れ、桃李に近寄った。
「桃李くん、次の授業は教室?」
「うん」
「じゃあ、一緒に行かない?」
「うん、良いよ」
泉に会釈して教室に向かった。
2人がいなくなると泉は携帯を出した。
試しに智の名前を検索してみるが、何も出なかった。