11.「零」と「泉」
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泉は仕事の都合上、智とすれ違いが続いていた。
顔は写真で確認していたし、校内で見かけていた。
パッとしない、地味というのが第一印象だった。
何故周りが智のことを「可愛い」と言うのか解らなかった。
智が男子の制服を着ていようが、着ぐるみで彷徨こうが気にしなかった。
ちゃんとプロデューサーの仕事が出来ればそれで良い。
そう思っていた。
隣の撮影現場に智が現れるまでは。
「隣のスタジオ、モデルがバックレたらしいよ」
スタッフの話が聞こえた。
声のトーンを落としてない。隠すつもりはないらしい。
暫くして廊下をバタバタ走る音が響いた。
足音が止むと隣のスタジオが騒がしくなった。
「ありがとう!」
「ごめんねぇ」
「早く着替えて」
「こっち座って!」
いろんな声が飛び交う。
「誰か来たみたいだね」
丁度、泉は休憩中だったので隣のスタジオを見学させてもらった。
「……何あれ」
ヘルプで入ったらしい少女はフリルとレースをふんだんに使ったドレスを着ていた。
ドレスにはカラフルなスイーツや童話のシルエットがプリントされていた。
メイクはマスカラ、アイシャドウ、桃色のチーク、薔薇色のルージュ。
人工色で彩られた顔。
全体的に濃かった。
素顔がわからないくらい。
「ロリータ服の新作。しかも大手会社」
一緒に来たスタッフが言った。
「それだけじゃないね」
泉はカメラマンに視線を移した。
業界では有名なカメラマン。
「バックレた人、終わったね」
「可愛いなぁ、どこの子だろ?」
(どこが?)
声に出さず、泉は毒づいた。
少女はカメラマンと数秒打ち合わせをすると、定位置についた。
少女の表情が変わると、一瞬にして空気が変わった。
小道具の日傘を開くと同時に撮影が始まった。
「!」
ほんの数秒で撮影が終わった。
少女は写真のチェックもせずに着替え用のカーテンの中に入った。
出てきた時には違う衣装に身を包んでいた。
セットに入ると同時にシャッター音が聞こえた。
少女は表情を一切変えず、何処か遠くを見ているようだった。
その表情が濃いめのメイクと馴染んでいた。仕草が自然で、セットの中がひとつの世界に見えた。
少女の日常を切り取っているような。
ドールハウスの中を写しているような。
撮影は取り直し無しであっという間に終わった。
終わって初めて、少女は息をはいた。
メイクスペースで化粧をおとす。
「!」
化粧を落として現れた素顔は、智だった。
智はまた息をはくと、校内で見かける顔になった。
そしてスタッフに挨拶するとスタジオを出た。
最後まで泉には気づかなかった。