11.「零」と「泉」
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転校した時、広く感じた校舎。
今は狭く感じる。
どんどん逃げ場所がなくなってく…。
智は廊下を走っていた。何かから逃げていた。
何から?
誰から?
わからない。
でもただ悲しくて、涙が出た。
離れなければ…。
でも離れたくなくない。
「っ!」
頬に冷たい風があたった。
驚いて走るのを止めてしまった。
上手く呼吸ができない。
息があがる。
「!?」
急に体が冷えた気がした。
同時に息が楽になった。
胸の締め付けがなくなり、深く呼吸ができる。
『智ちゃん』
遠くで優しい女性の声がした。
『智や』
今度は男性の声。
周りを見るが、誰もいない。
『智』
肩を掴まれた。
「!」
目を開けると零とあんずの顔があった。
随分眠っていたらしい。
窓の外はすっかり暗くなっていた。
掴まれた肩を見た。
零の手だった。
「大丈夫かえ?」
零の指が智の額に張り付いた前髪をはらった。
「……私」
「怖い夢でも見たかえ?」
「大丈夫です」
智は起き上がるとあんずと共に部室を出た。
(なんか胸がスースーする)
智は自身の胸に手をあてた。
「!!」
(な、無い!)
「あ、胸の布なんだけど、苦しそうだったから…」
あんずが言うと智は顔を真っ赤にした。
「…あ…あの」
「落ち着かない?」
「そうじゃなくて…………零さん」
智が小さい声で言うと、あんずもハッとした。
「だ、大丈夫よ。零さんは見てないから!」
零はなずなとの会話を思い出していた。
なずなが零とあんずに見せたのは最近、拠点を海外に移したカメラマンの公式サイト。
『多分、智はこの人の娘だ』
そこに載っていた複数の智の写真。
幼少の頃から最近のものまで様々だ。
コメント欄には「こども」と一言だけ記されていた。
なずなによると拠点が移ってから更新されたらしい。
プライベートが謎でも有名なカメラマン。
既婚は公表していた。
最近まで公表されてなかった「こども」の存在。
『何故、今なのじゃ?』
このタイミングで公表すれば、智は両親と海外にいると周りは思う。
零は写真を見比べる。
確信はないが、何かあるはず。
植物の手入れをする幼い智。
母親らしき人と料理をする智。
ソファに寝転びながら読書する智。
窓の外を眺める智。
『なるほど、それが狙いか』
「籠の鳥か」