11.「零」と「泉」
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(…首が痛い)
『話すのが難しいのなら首を振れば良い』
颯馬からそうアドバイスを受けて実行したが、首への負担は大きい。
智はため息をついた。
「!」
角を曲がると足を止めた。
あの人がいた。
桃李と話していて、智に気付いていない。
智は音をたてず、ゆっくりと後ろに下がった。
「あ」
桃李が智に気付いた。
瞬間、来た道を走って引き返した。
智を呼ぶ声を聞きながら、その場所から逃げた。
(智が後ろにいた)
あんなに再会を望んでいたのに、あんなに近くにいたのに、走り去っていく姿を見た瞬間、動けなくなった。
あの時と重なって見えた。
(……どうしよう)
智がいるのは軽音部部室前。
数分前、自分が機嫌をそこね出たところ。
追いかけてくる桃李は撒いたが、文字通り、来た道を戻ってしまった。
「…?なんか中が静か」
完全防音ではないので中で誰か活動していれば窓や扉付近から音が聞こえる。
だが、今は無音だ。
智はそっと扉を開け、中を覗いた。
「誰もいない」
室内は誰もいない。
先程の騒ぎが嘘のように静かだった。
「………」
智は中に入り隅に座った。
今はひとりになりたかった。
室内はカーテンが閉まっていて暗かった。
(……あ、眠い)
智はそのままコテンと眠りこんだ。
放送室。
「悪い、遅くなった」
なずなが慌てて入って来た。
室内にはなずなに呼ばれた零とあんずがいた。
「2人に見てもらいたい物がある」
なずなはある写真を見せた。
零もあんずも最初は写真を見てもわからなかった。
先に気付いたのはあんずだった。
「…これ、智ちゃん?」
「そうだ」
なずなが頷く。
零も目を見開いた。
「情報源はこのサイトだ」
なずなは携帯画面を見せる。
昼休みに見ていたサイトだった。
「……なるほど」
今度は零が気付いた。
放送室を出た零とあんずは軽音部部室まで黙って歩いた。
うっかり喋って誰かに聞かれたら後々面倒だからだ。
カチャ。
「おや」
「あら」
零とあんずが軽音部部室に入ると智が丸くなって寝ていた。
2人は智を起こさないように静かに近付いた。
凛月がバイオリン教室から連れ出した少年、いや、少女だった。
あの時は弟の突然の行動に吃驚して、智のことは気にもとめなかった。
だから、憶えていなかった。
だから、智の親のことも知らなかった。
「嬢ちゃんにも話してなかったのかえ?」
「はい」
零が智の頬に触れる。
ひんやりと冷たかった。
智がみじろぐ。
「誰も知らぬのだな?」
「……多分」