9.「渉」と「光」
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前日。
智は手を引かれ、凛月の前に倒れこんだ。
凛月の歯が智の首に当たったのは偶然だと思ったが、違うと解った時にはもう遅かった。
犬歯が食い込み、痛みが走った。
「っ!」
智は凛月から離れようとしたが、背中に腕をまわされ、しっかり抑えこまれた。
もがいても、どうにもならなかった。
ふと凛月が動かないことに気付く。
「凛月ちゃん?」
首を動かし、凛月を見ると、彼は眠っていた。
その後、何度も脱出を試みたが、上手くいかなかった。
圧倒的な力の差を感じた。
携帯を取り出し、あんずがまだ校内にいることを祈った。
『ガーデンテラス』
あんずの携帯にはその文字だけ送られてきた。
しかし、ガーデンテラスには誰もいなかった。
「智ちゃ~ん?」
あんずは声を控えめに智を呼ぶ。
「先輩~」
少し離れた所から智の声がし、ガーデンスペースの茂みから小さな手が見えた。あんずはそこに小走りに向かった。
「どうしたの?……あらあら」
「助けてください」
涙目で今にも泣きそうな智。
悪戦苦闘した結果、髪も制服も少々乱れていた。
あんずは凛月の腕を持ち上げ、智は空いた隙間から脱け出した。
「はぁ」
智は髪を撫で付け、簡単に整える。
「ありがとうございます」
制服も整えようとしたが、顔をしかめ、手を止めた。
「!」
あんずも気付いた。
智のシャツの襟元に血が付いていた。
(シミになってなかなか落ちなかったし、凛月くん覚えてないって言うし…)
あんずは溜め息をつきたかったが、光が見ているので堪えた。
溜め息をつけば、優しい光はあんずのことも心配してしまう。
あんずはにっこりと光に笑顔を向ける。
「大丈夫よ。すぐに良くなるから」
1ーB教室。
光は教室に戻ると智を見つけた。
智はシャツの第一ボタンを外していた。
苦しいというより、暑いかららしい。
首にガーゼがちらりと見えた。
智は司と楽しそうに話している。
何があったか知らないが、最近までギクシャクしていた2人。
心配だったけど、今は2人供笑顔で嬉しかった。
放課後。
光と智がグラウンドに行くと嵐とあんずがいた。
木陰で仲良くストレッチをしていたが、2人に気付くと笑顔を向けた。
「来たわね」
嵐が言った。
あんずは智の首のガーゼに目をやる。
「痛むようだったら言ってね」
「はい」
智は頷いた。
「ねーちゃんも走るの?」
光が聞いた。
あんずは体操服姿だった。
「…そうよ」
あんずは渇いた笑みを浮かべながら言った。
隣で嵐が苦笑いしている。
「?」
光と智は首を傾げた。