9.「渉」と「光」
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美しさに魅せられた。
その言葉通りに智は動けなかった。
(…男性、だよね)
「はじめまして、部長の日々樹渉です」
「は、はじめまして」
「メアリーのどこが良いですか?」
渉は智に質問する。
「姉妹の中では一番の努力家だと思います」
智が応える。
「確かに、勉強家のメアリーの知識は豊富で、言葉はとても知的です。でも姉たちと対等に会話をしようと背伸びしています」
「そこが可愛らしいじゃないですか」
智の言葉に渉は満面の笑みを浮かべた。
(本当に綺麗な人)
「先輩はエリザベス役ですか?」
「いいえ。違います」
渉はクスクス笑いながら智から顔を離した。
「私はダーシーです。しかし、エリザベス役がいません」
智は台本をザッと読んだ。
原作にもある2人の重要な場面が書かれている。
ダーシーの語りにはなってない。エリザベスの台詞がある。
「智、エリザベスをやりませんか?」
「無理です」
智は即答した。
「そうですか」
渉が智の髪紐を解いた。
「!?」
驚く智。
渉は笑顔を崩さない。
「髪が少し乱れていますよ」
近くの椅子に智を座らせた。
「本当は言わずにいるつもりでした」
「?」
智は後ろに回った渉を見ようとした。しかし、頭を抑えられ、見ることができなかった。
「あなたも姉君も素晴らしい人です。ですが、身分が違う」
「!」
渉が突然口にしたのはダーシーの台詞。
「散々迷いました。しかし、自分の気持ちに正直でいたい」
髪を一房、みつあみにした。
智は俯く。
髪が顔を隠してしまい、友也からは表情が見えなかった。
「あなたを愛しています」
渉は前に回り、智の顔を見た。
智の顔にかかった髪だけに触れる。
表情がはっきりと見えた。
顔をしかめ、瞳を潤ませて、口をギュッと結んでいた。
「応えを聞かせて下さい、ベネット嬢」
「……私は」
智は口を開く。
「私は、あなたが嫌いです」
今にも泣きそうな、震える声で言った。
「駄目ですよ」
渉が優しく言う。
「ここはエリザベスがダーシーに怒りをぶつけるところです。大切な姉を傷付けた男から告白されたのですから」
渉は続ける。
「オマージュ作品では、エリザベスはダーシーを思いきり蹴りつけてますよ」
智は目を見開き、それからクスクス笑った。
「ロマンス小説とは思えない、壮絶な場面ですね」
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