1.「あんず」と「ひなた」
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考えているうちに教えられた智の家に着いた。
住所と表札を確認する。
2階建ての一軒家。
季節の植物が綺麗な、手入れされた庭。
「ここかぁ」
あんずはインターホンを鳴らす。
ピンポーン
…………………
何の音もしない。
「いないのかなぁ?」
もう一度何鳴らす。
ピンポーン
カチャ
静かにドアが開いた。
「あ、智ちゃん」
「!」
あんずに気付いた智は固まった。
「こんにちは」
あんずは笑顔で手を振る。
「少しお話しない?」
智は暫く動かなかったが、やがてゆっくりと玄関から出てきた。
動きが少しフラフラしている。
「もしかして、寝てた?」
智が頷く。
「起こしちゃってごめんね」
「いいえ」
カチャリと門を開ける。
「どうぞ、上がって下さい」
あんずを家の中へ招いた。
「どうぞ」
「いただきます」
あんずは出されたお茶を一口飲んだ。
「ご両親は仕事?」
「はい」
「そう。私も同じ」
智が入れたお茶が美味しくて、あんずはもう一口飲む。
「………学校」
「ん?」
「行かなくて、ごめんなさい」
小さい口からポツリポツリと言った。
「怒りに来たんじゃないのよ。ただ、理由を教えてほしいの」
「………理由」
智は俯いた。
「クラスの子達に何かされた?」
首を横に振る。
「他のクラスは?」
同じ仕草をする。
「……中庭」
「!」
智が肩を震わせた。
目をギュッと瞑る。
「……知ってる人がいたんです」
声が震えていた。
会いたくない。
会ってはいけない。
(もう会わないと決めたのに!)
「智ちゃん」
あんずは心配そうに覗きこむ。
智は何も言わない。
「智ちゃん、これを見て」
あんずは紙を数枚、智の前に置いた。
「夢ノ咲学院内のユニットとそのメンバーの一覧よ。この中にその人はいる?」
智は一覧を見た。
「います」
そして、白く細長い指でその人物の名前を差した。
「この人?」
「はい。詳しくはまだ言えません。だけど………会うことはできません」
最後の言葉は振り絞るようだった。
「わかりました。ではこのユニットのプロデュースはしなくて結構です」
あんずがハッキリと言った。
智は驚いてあんずを見る。
あんずは優しく微笑む。
「理由はどうあれ無理強いはできません。幸い、学年も違いますし、なんとかなりますよ」
智はホッとし、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
智の家をあとにして、あんずは大きく息を吐いた。
(多分、あの人の耳にも智ちゃんのことは伝わってる。知らなくても、同じメンバーのあの子が言うだろう)
少なくとも、積極的に活動をしている生徒、ユニットには智の存在は知れ渡っていると考えて良い。
あんずと同じ、智は転校前から噂の的だった。
その中で上手くやらなくては…。
遠からず再会の時は来る。
(その時、私も智ちゃんもちゃんと立って向き合えるようにしよう)
智が登校してきたのは、その数日後。