7.「嵐」と「レオ」
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夏休みのある夜。
レオは砂浜を歩いていた。
波が届くか届かないかの距離をとって、届きそうになったらステップを踏むように避けた。
やがて海から離れ、道路側のコンクリートの壁に寄りかかって座った。高い壁の上は道路、通る車のエンジン音が聞こえる。
月が海と砂浜を明るく照らしていた。
いつも持ち歩いているノートを開いた時、一瞬辺りが暗くなった。
ドシャ
「!」
何かが落ちた音がして顔をあげると人が踞っていた。
顔は見えない。
月が明るいにも関わらず、塗りつぶしたような黒髪。
驚く程白く細い腕と脚が服から伸びている。
白いワンピース。
黄色にオレンジのグラデーションが入ったショール。よく見るとショールではなく浴衣だった。
「……うぅ」
か細い少女の声。
呻き声をあげて起き上がった。
胸元の隙間から浮いた肋骨が見えた。
「なんだ?お前」
「!」
少女は初めてレオに気づいた。
風が吹いて、髪が舞い上がり、少女の顔がはっきり見えた。
青白い、小さい顔。
隈が目立つ大きな瞳。
渇いた唇。
ノースリーブのワンピースが大きく見える程、細い身体。
あまりにも白過ぎて、髪は闇色に、ワンピースに巻き付くように飾られたリボンは、血の色のように見えた。
8月半ば。
智は海岸線道路を歩いていた。
相変わらず昼間は出られないが、夜ならなんとか出歩けた。
夏休みなので、出席数を気にしなくて良い。
ワンピース1枚では少し寒かったので、ショール変わりに浴衣を引っ張り出して羽織った。
長く日光を浴びていなかった肌は今までで一番白い状態と言っていい。
智は月を眺めた。
「……綺麗」
声を出すこともあまりなかった。声帯を使うと喉が痛かった。
それでも、身体に入ってくる空気が心地好かった。
「月だけでも、こんなに明るいんだぁ」
もう少し歩けば砂浜に降りられる階段がある。
だけど、それよりも早く、もう少し月に近付きたかった。
柵に手をかけ、乗り越えて飛び降りた。
「あ」
砂浜に降りた途端、バランスを崩した。
脚の筋力が弱っていて、着地した衝撃を受け止めきれなかった。
ドシャっと踞るように倒れた。
声が出せないくらい全身が痛かった。
暫く動けなかった。
力を振り絞って起き上がろうとした。
「……うぅ」
「なんだ?お前」
「!」
智は顔をあげた。
初めて人がいることに気づいた。
暗い中でも目を惹く明るい髪。
猫のような瞳。
全てが輝いてるように見えた。