1.「あんず」と「ひなた」
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9月中旬。
その日、1年A組に女子の転校生が来ると生徒達は聞いていた。
プロデュース科の新しい生徒。
しかし、あんずに連れられて来た転校生は男子の制服を着ていた。
無表情の中にある、意志の強そうな、同時に氷雪のように冷たそうな、真っ直ぐな瞳。
「智です。よろしく」
挨拶も素っ気なかった。
授業中も休み時間もずっと窓の外を見ていた。
ひなたや鉄虎がなんとか会話をしようとしたが一蹴され、弟や先輩に泣きつく結果になってしまった。
智は会話どころか誰とも目を合わせようとはしなかった。
放課後にはさっさと帰ってしまい、智を迎えにきたあんずおも仰天させた。
そして2日目以降、は登校していない。
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「それが、先週のことなの」
あんずが言った。
放課後、2年A組の教室、生徒はまだ数人残っている。
不登校の不思議な転校生の噂は1年生を通じて広まっていた。
「じゃあ、これからその子の家に行くの?」
スバルが聞いた。
スバルも創や翠から聞いて気になっていた。
「そう」
あんずは頷く。
昼休み、1年A組の担任に呼ばれ、智と話をしてきて欲しいと頼まれた。
「じゃあ俺も行く~」
「駄目です」
あんずはピシャリと言った。
「クラスメートではなく、私のところに話が来た。もしかしたら男子が苦手かもしれない」
(それに気になることもあるし)
初めてと会った時、あんずも他の生徒同様に目を丸くした。
腰まである艶やかな黒髪、それを髪紐でゆるく纏めていた。
白い肌、ぱっちりとした目。
キュッと結ばれたさくらんぼのような口。
そんな愛らしい「少女」は男子の制服を着ていた。
「男子の制服が良いと言ったら用意してくれました。これから宜しくお願いします、先輩」
鈴を転がしたような声。
智はニコリとする。
教室に案内しながらプロデューサーの活動内容を簡単に説明していた。
「!!」
突然、智が足を止めた。目を大きく見開き、ジッと中庭を見つめていた。
「?」
あんずも中庭を見たが、誰もいなかった。
「どうしたの?」
「……なんでもありません」
智は俯き震えた。
「大丈夫?保健室、行く?」
首を横に振り、顔を上げた。
「大丈夫です。今更ながら緊張してしまって…」
笑顔がぎこちなかったが、深く聞いてはいけない気がした。
教室に着いた時には笑顔は完全に消えていた。
「何かあったら言ってね。放課後、迎えに行くから」
そう言ってあんずは自分の教室に行った。
そして放課後、智は黙って帰ってしまい、翌日から学院に来なくなった。
あんずは中庭を見た時の智の反応が気になっていた。
あの時、中庭には何があった?
智は何を見た?
それとも誰かいた?
……誰?
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