6.「真緒」と「司」
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放課後。
真緒が席を立とうとしたら、後ろから制服を掴まれた。
尋ねなくても誰だかわかる。
「何だ?凛月」
凛月はまだ眠そうな目で真緒を見る。
「まーくん、これから智に会うんでしょ?どんな子だったか後で教えてぇ…」
「お前さっき興味ないって」
「さっきはさっき。今は今」
「……はいはい」
真緒が教室を出ると凛月は自分の腕に頭を乗せた。
(きっと人違い。だって、俺が知ってる智は男だもん)
凛月は目を閉じた。
先生に教えてもらいながら、目を輝かせて智はバイオリンに触れる。
その姿は、瞳は本当に楽しそうだった。
だけど、母親が先生と話していると顔を伏せた。
バイオリンに触れていた時と違って、表情は消えかけ、結ばれた口は何か言いたくても我慢しているようだった。
凛月はそっと声をかけた。
『ねぇ』
『!』
智は顔を上げて凛月を見た。
少し長い黒髪がフワリと揺れる。
惹き込まれそうな、大きな瞳。
思わず見つめてしまった。
智が口を開いた。
『何?』
鈴が転がったような、囁くような声。
『バイオリン、嫌い?』
凛月が聞くと智は再び口を閉じ、俯いた。
『……オレは…』
智の声は震えていた。
瞳が揺れた。
『……来て』
凛月はそう言うと智の手を掴んで歩きだした。
『凛月?どこ行くの!?』
兄の声を無視して教室を出ると2人は走り出した。
凛月は目を開ける。
(今まで忘れてたのに、何で思い出したんだろう?)
レッスン室。
智はあんずの後ろに隠れて来た。
1年生がいないことに緊張しているらしい。
それでもスバルと真緒を見つけるとニコリと微笑む。
智はあんずに促され自己紹介する。
「よろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げる。
束ねた髪が肩からさらりと流れた。
真緒はあんずを手伝う智を時折見ていた。
姿勢、所作ひとつひとつが美しかった。
決して意識している風ではなく、自然に、流れるように。
智と目が合うと慌ててそらした。
「?」
智は首を傾げる。
(……困ったなぁ)
あんずがそっとため息をついた。
智に向けられる視線に気づいていた。
真緒と真。
真はいくらか智のことを知っているらしいから仕方ないとして…
(なんで真緒くんまで?)
誰かに何か言われたのだろうか?
誰に?
何を?
クラスメート?
バスケ部?
生徒会?
ある人物が浮かんだ。
(……まさかね。いや、でも…)
あんずは頭を抱えたいのを堪えた。
しかし、それは無用だった。
「ちょっと良いか?」
真緒が智に直接声をかけた。
「何ですか?」
真緒は智の後ろにまわり、束ねた髪に手を入れた。
「!?」
突然のことに智は固まった。
カサリと乾いた音がした。
「とれた」
枯葉が1枚、智の髪から出てきた。
智は振り向いて枯葉を見た。
「まあ、全然気づきませんでした。ありがとうございます」
ふわりと微笑んだ顔が、あの時の顔と重なった。