4.「なずな」と「奏汰」
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智が空手部の道場で倒れたと連絡を受けたあんずは保健室に急いだ。
ガラッ
保健室には鉄虎と葵兄弟がいた。智はベッドで横になっていた。
「大丈夫?」
鉄虎が真っ先にあんずに駆け寄った。
「すみません!俺達がついていながら…」
「一体どうしたの?」
「…えっと」
「どう説明すれば…」
「……」
全員、目をそらす。
「組手でもした?」
「違います」
「道場がファンシーなことになってたとか?」
「…違います」
「まさか紅郎先輩見て倒れた訳じゃ…」
アハハっとあんずは笑いながら言った。
『………』
「……え?」
「…そのまさかッス」
「!!」
あんずは口を手で抑え、叫びたいのを堪えた。
「なんで?」
「わからないッス」
鉄虎は俯く。
「俺達も解らないんです」
ひなたが言った。
ゆうたも頷く。
3人の話によると、智は道場に入り、部長の鬼龍紅郎と顔を合わせた途端、倒れたそうだ。
保健室まで運んだのは紅郎だという。
「……ん」
「!智ちゃん」
あんずが智に駆け寄る。
智が起きる気配はない。
(…なんだか苦しそう)
あんずは智のネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外した。
「っわわ!」
智の傍にいたゆうたが驚いて離れた。
「あ、ごめん」
あんずはカーテンを閉め、男子から見えないようにした。
そしてネクタイを首から外した。
智に毛布をかけて、カーテンを開けた。
「ところで紅郎先輩は?」
「大将は帰ったッス。自分がいたら恐がるかもって…」
「そう。じゃあ、後は私がいるから。鉄虎くん、紅郎先輩には明日、私も道場行くと伝えてくれる?」
3人を帰すと、あんずは椅子をベッド近くに置いた。
座る前に毛布をめくった。
「苦しい筈だよ」
タンクトップの下からのぞく布。外した方がより楽になるが、どうしたものかと考えて、やめた。
「もう少ししたら起こそう」
椅子に座り、智を眺めた。
さらしで体型を変えても、
男子の制服を着ても、
話し方や仕草は変わらない。
「男子の格好でも、女の子なんだよね?」
(あの本と関係あるのかな?)
智が破いていた本。
あんずは何とか翻訳できた。
ロマンス小説の名作。
何度も映像化された。
演じた役者達は世界中の人達を魅了した。
あんずも友達と映画館に観に行った。
だから翻訳した本を読んでなくてもタイトルはすぐに解った。
(もし傷付いているなら、癒せるのはあの人だけ。…でも、まだ会えない。難しいなぁ)
とりあえず、帰宅が遅くなると弟に連絡しようと携帯を出した。
「貴女ならどうしますか?………女王陛下」
ぽつりと呟いた。
前の学校で皆が愛した、あんずも愛していた生徒の通称。
「逃げた私を、赦してくれますか?」
しかし、この問いの応えは決して返ってこないと知っている。