4.「なずな」と「奏汰」
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智は着替えて、トイレの鏡で髪を整えていた。
(あの人は何が知りたいんだろう?……何処まで知ってるんだろう?)
学院一の情報通、仁兎なずな。
彼に知らないことは無いと皆言う。
(あんず先輩が口外しないよう、言ってくれたみたいだけど…)
水色のサテンリボンを髪に巻く。
『智は髪が綺麗だね』
智の手が止まった。
昔、あの人に言われた言葉を思い出した。
「………っ!」
ガンッ
鏡を叩いた。
「…馬鹿みたい」
男子の制服を着ると決めた時、髪を切ろうとした。
でも、切れなかった。
その一言が、今でも嬉しかったから……。
教室に戻ると葵兄弟が待っていた。次は空手部に行く予定だった。
「お待たせ―」
智は2人に笑顔を向けた。
「お帰りー」
ひなたが笑顔で手を振る。
智は通学用にしているボストンバックを肩にかける。
「さ、空手部に行こう。凄い人がいるんだよね?」
教室を出て、廊下を進む。
ひなたが前、ゆうたと智が後ろに並んで歩いていた。
「ねぇ」
ゆうたが静かに智に声をかけた。
「仁兎先輩に何言われたの?」
「え?」
智はゆうたを見た。
ゆうたは心配そうな表情をしていた。
「さっきから少し、変だよ」
「…」
智はゆうたから目をそらした。
「取材したい、て言われたの。でも断った」
「それだけ?」
「うん」
再び笑顔をゆうたに向けた。
「私は普通の高校生だもん」
(…そう、オレはただの高校生)
放送室。
「で、2人は智をどう思う?」
なずなの問いに忍と真は困った顔で見合わせた。
「…どうと」
「言われても、…ねぇ」
2人はテーブルを見る。
そこには複数の記事と写真のコピーが広がっていた。
「深入りするなと……」
「あんずちゃん、言ってたよねぇ。…でも」
真が写真を1枚拾う。
「これ、本当に智ちゃん?」
写真には智が写っていた。今よりも幼い。
真はまだ直接会ったことはないが、あんずから写真を見せてもらって知っていた。
「似ているだけじゃぁ」
「でも智の名前が載ってる」
「しかし、今と別人みたいでござる」
(……夜の顔と似ているのもある)
忍は記事と写真を見比べ、並べる。
「だから気になるんだ。………忍ちん、なんで写真の順番がわかるんだ?」
「え?」
忍が手を止める。
ただ向きがバラバラだった写真を並べていただけだった。
だが、無意識に並べ替えていたらしい。
「あれ?なんかこれ…」
真があることに気づいた。
「……段々と、雰囲気が変わってる?」
「気づいたか」
なずなは忍が並べた写真の両端だけを2人の前に出した。
『!!』
左側は幼い、小学生くらいの智。
その写真では無邪気な笑顔をしていた。
右側はそれより成長した、最近に近い写真。
無表情で、人形のような、貼り付いた表情をしていた。
「俺も零ちんも掴めなかったことがある」
対照的な2枚の写真。
なずなは右側の写真を指先でトントンと叩く。
「この写真を最後に智は姿を消した。以降、一切の情報が無い。…まるで、神隠しに遭ったように」
誰かが廊下を走る音が響いた。