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立派な門を潜ると1人の女性が立っていた。
「ようこそ、天祥院殿」
「こんにちは、水季」
水季は英智に挨拶すると、その隣にいる、男子の制服を着た少女に微笑んだ。
「そなたが智か」
「は、はじめまして」
智がお辞儀をすると水季は笑みを深めた。
丁寧に結わいた、銀色の髪。
薄水色の瞳、同色の留袖の着物。
透けるような白い肌。
細い手が智の小さな手をとる。
「では智は此方へ」
水季が智を連れて来た場所は風呂場だった。
智はきょとんとする。
「どうした?早く脱がぬか」
「え」
「聞いておらぬのか?ここは湯治専用の元旅館だ」
スルッと智のネクタイを外す。
「あ、あの…」
「どれ、吸血鬼に噛まれたという傷を見せてみよ」
水季はシャツのボタンを外し、肩までおろした。
「!」
智は驚いて動けなくなった。
「ふむ、薄いが痕が残ってしまったか」
智から離れた。
「暫く湯に浸かっておれ」
水季は脱衣室から出た。
水季は自室の押入れの奥から一振の短刀を出した。
鞘も柄も木製。
鍔がなく、ぴたりと合わさっている。
木刀に見えるが、本物の刀。
それを持って脱衣室に戻る。
智の姿はなかった。
制服が畳まれて置かれている。
浴室から水音が聞こえる。
それを確認すると水季は天井を見る。
「やれやれ」
水季は鞘から刀身を抜き、天井に、『黒い影』に向けた。
数十分後。
「入るぞ」
水季は英智がいる客間の襖を開けた。
「傷はたいしたことはない。安心しろ」
「そう。ありがとう」
英智は本当に安心したような顔をした。
そんな英智を見て水季はクスクス笑う。
「何だい?」
「噂通りに愛らしい、あのような子を連れてくるとはな」
お茶のおかわりを出すと英智の向かいに座る。
「随分と気に入っておるようじゃのう」
「智は妹みたいな存在だよ」
水季は目を細める。
「なおさら『籠の鳥』にしそうなものじゃが」
「……一度『箱庭』に閉じ込めたよ」
「ほう」
お茶を一口飲んだ。
「何故、『箱庭』から出そうと?」
「色々あってね」
水季は頷いた。
ここは旅館として機能はしていないが、昔から訳有りの客がくる。
だから深くは聞かない。
「智とあんずは仲は良いか?」
「うん、そこは問題ない」
「ならば良い」
水季はまた頷く。
「お主も入ってゆくか?」
「いや、智が上がったらすぐ連れて帰るよ」
「そうか」
智と英智が帰ると水季は縁側に座った。
短刀を鞘から抜き、刀身を眺める。
「これで、もう少し太れば良いが」
水季は智の痩せた身体を見た時、一瞬言葉を失った。
あれでも太った方らしい。
それでも健康的とは言えなかった。
(あれでも有名人のこども、か)
水季が脱衣室で刀身を向けた祓った『黒い影』。
それは智にのし掛かるように憑いていた。
恐らく、智の存在を知る各業界の思念。
水季が驚いたのは、それでも智自身が清らかだったこと。
心も瞳も『黒い影』の影響をあまり受けていなかった。
「天祥院殿のおかげか」
『箱庭』に閉じ込めた。
英智はそのことを後悔していた。
だが、結果としてそれが『黒い影』の影響を最小限にしていたかもしれない。
「智は学院ではどう過ごしておるのかのう」
水季は携帯を出し、ある人物にメッセージを送った。
『明日の放課後、そちらの科に行く。出迎え宜しく♪』
即返信が来た。
『嫌です。来ないでください』
「っぐ」
別の人物に送る。
『お待ちしております』
「よしよし。やはりあんずは良い奴だ」
水季はにんまりした。
To be continued.
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