平成マーメイド
悠然と佇む
あの人の船は
琥珀の窓の向こう
時折、珊瑚の城へ遊びに来ては
生温い感覚だけを残して
帰っていく
あの人は、知らない
私には
思いを伝える術がないこと
この足が
刃物を踏むように痛むこと
その胸を刺さなければ
二度と自由に泳げないこと
『あなたは、
お城へ帰る人。
もう、此処へ来ては
いけないわ。』
一念天に通じず
私はガニアの海へと還ります
ナイフを捨て
飛び込んで
自分の躯が
気泡となってゆくのを感じながら
最期の最後に目にしたもの
水面に映る、大きな影
ユラユラ揺れる、あの人の船
さようなら
さようなら
私だけを、愛してほしかった
.