最愛
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カイジと衣織は別々にギャンブルの会場へと連れてこられた。
衣織は賞品として、ステージの上の椅子に座らされる。
こんな状況じゃなかったら、素敵なお姫様気分を味わえるような豪華な装飾の施された椅子の上で、ひたすらカイジの勝利を祈るしかない。
一方カイジは、同じ部屋の中央、円形のテーブルのところへ行くよう指示される。
8つの椅子がテーブルを囲うようにセットされ、そのうち7つには既に男達が座っていた。
彼らが今日の勝負の相手なのだろう。
カイジは残っている1つの椅子に座る。
「これで参加者は全員揃った。ではギャンブルのルールを説明する。」
黒服はそう言うと、持っていたカードをテーブルに広げて見せた。
(うっ…!)
それはお馴染みの―――
トランプ
「種目はババ抜きだ。言うまでもないが、最後にババを持っていた者の負け。今回は上がりの順序は問わない。」
つまり、何番目だろうがとにかく手持ちのカードがなくなれば勝ち。
最後にババを持っている1人だけが負けというルールだ。
「負けた者は退場。1人減った状態で次の勝負をしてもらう。」
8人でスタートして、負けた者が抜けてどんどん人数が減り、最後は2人での勝負。
それに勝った者が商品である衣織を手に入れるということらしい。
ちなみにカイジ以外の者が勝った場合、本来は地下労働者が女を買うには金がかかるが、勝者は無料になるとのこと。
そのため、カイジ以外の参加者も勝ちには貪欲なのだ。
「説明は以上だ。カード配布は不正がないよう、こちらで行う。」
そう言うと、黒服はテーブルに広げていたカードを一旦回収してよく混ぜ、参加者達に配り始めた。
(ババ抜きか…間違いなく心理戦だよな。)
カイジの目が鋭くなる。
ババを引いた時や、手持ちのババを相手が引きそうな時の僅かな表情の揺らぎを見抜かなくてはならない。
衣織のいるステージは、ちょうどカイジが正面に見える位置だった。
もう二度とギャンブルはしてほしくなかったが、ギャンブルの時の彼の真剣な眼差しにときめくのも事実だ。
しかも、今回は自分のために戦ってくれている。
こんな時でも、つい顔が熱くなってしまうのを感じていた。
「それでは1回戦、始め。」
黒服の声を合図に、ついに戦いが始まった。
まず配られた時点でペアになっているカードを各自が捨てる。
それからジャンケンをして、勝った者から時計回りにカードを引いていく。
(オレの配布カードにババはない。あとはとにかく引かないことだな。)
カイジは周りの人間の反応に注意を払いながらゲームを進める。
ところで、大人数でババ抜きをしてみると分かるが、ババが一度も回ってこないまま上がってしまうことは比較的よくある。
最初の2戦、カイジの手元には一度もババが来なかった。
1戦ごとに敗者が退場なので、3回戦は6人での勝負。
ここで初めてカイジの手元にババが来る。
しかし、すぐにカイジからカードを引く男がババを引いていった。
こうして3、4、5回戦は、手元にババは来たものの無事に上がり、カイジは生き残っていた。
(良かった…。ここまでは順調ね。)
衣織はステージ上からずっとカイジを見つめていた。
賞品という立場上、声に出して応援はできない。
でも時々カイジと目が合うから、気持ちは届いているだろう。
ついに6回戦目。
この時点で残っているのはカイジを含めて3人。
(やっぱりこいつらが残ったか…。)
カイジは対戦相手2人を見て、予想通りだと思った。
1人は自分のカードを切ったりまとめたり広げたり、とにかくカードをいじり続ける男。
その動作に紛れて、カードに何か細工をしているかもしれない。
もう1人は表情が読めない男。
相手が引こうとしているカードがババだろうが違うカードだろうが、いつでも嫌な笑みを浮かべている。
人はポーカーフェイスを意識しても、僅かな表情の変化が見えてしまうもの。
しかし常にあからさまな作り笑いをしていれば、多少不自然な動きをしても、そもそも不自然な表情なのだからバレることはない。
どちらも一筋縄ではいかない相手だ。
カイジはこの2人を早い段階から警戒していた。
(こいつらに勝たなきゃ、衣織は救えない。勝つのはオレだ!)