最愛
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涙を流すのは
それだけあなたを
愛してるから
* 最愛 *
「本当にいいんだな?」
「はい。お世話になりました」
仲谷衣織は、これまで勤めてきた遠藤金融から去ることを決意した。
金融屋として伊藤カイジという債務者に出会い、彼を愛してしまったのだ。
最初は一目惚れだった。
そして、エスポワールでのギャンブルや命懸けの鉄骨渡り、利根川とのEカード勝負を共に乗り越えるうちに、2人の絆は確かなものとなっていった。
今ではもう互いが、かけがえのない存在だ。
そんな大切な人を傷つけ、追い詰める帝愛グループで、働き続ける訳にはいかなかった。
例えカイジの件がなかったとしても、裏の顔を知ってしまった以上は帝愛を辞めていただろうが…。
ともかく、衣織は今日、カイジと人生をやり直す第一歩を踏み出そうとしていた。
上司である遠藤は、差し出された退職届を見ながら複雑な表情をしていた。
衣織は、一向に退職届を受け取ろうとしない遠藤を不思議に思う。
「あの…遠藤さん。何か問題でも…?」
思い切ってそう問うと、遠藤は言いにくそうに口を開いた。
「実はな、兵藤会長からお前に関する命令が下ってるんだ。」
「え…?」
嫌な予感がする。
というか、嫌な予感しかしない。
衣織は会長と一度会っているが、とても人間とは思えない所業を平気でやってのける男だ。
「えっと…それはどんな命令なんですか…?」
恐ろしいが、自分に関することである以上聞かない訳にはいかない。
「まぁ、要するに異動命令だな。心配するな、伊藤カイジが勝てばお前は解放される。」
「勝てば…って、そもそも何で私の異動にカイジが関係するんですか?…というか待って下さい、私は辞めたいんですけど異動ってどういうことですか?」
いまいち要領を得ない遠藤の説明に、不安は募るばかり。
詳しいことは分からないが、カイジを巻き込むのは確かなようだ。
「仲谷、お前が辞めたいと言ってきたら確保しろとの命令だ。」
「!?」
「確保し、遠藤金融から地下労働施設の接待係に異動させる。」
「接待って…?」
「お前も噂くらいなら知ってるだろ。あそこは娯楽がほとんどない。もちろん女っ気はゼロ。だから地下の連中は女に飢えてる。」
「……。」
遠藤の話を聞いているうち、なんとなく展開が見えてきた。
「地下でも金を貯めれば酒が買える。同じように、女も買えるようにしようって計画があってな。」
「つまり、体を売れってことですか…!?」
あまりの内容に思わず声を荒げてしまった。
カイジ以外の人に触れられるなんて耐えられない!
「…そういうことになるな。」
遠藤は他人事のように話しつつも、少し暗い表情をしている。
「だが安心しろ、いきなり異動って訳じゃねぇ。無事に帝愛グループから解放される方法も用意されている。」
遠藤はタバコを吸って少し間を置き、それからこう言った。
「お前を賭けたギャンブルの大会を開くそうだ。」
カイジが勝てば…っていうのはこのことだったのか。
それにしても、人をギャンブルの賞品にするなんて…。
「利根川の失脚で、オレも帝愛グループでの発言力はゼロに等しい。仲谷、助けてやれなくて悪い。」
遠藤は申し訳なさそうな顔をしていた。
債務者相手に芝居でそういう表情をすることはあったが、今回は演技ではなく心からの表情。
遠藤と共に長い時間を過ごした衣織にはそれが分かった。
「…そんな顔しないでください。遠藤さんのせいじゃありませんから…。」
そう言うしかなかった。
衣織は自分の認識の甘さを後悔した。
あの会長が、帝愛を裏切った彼女を無事に解放するはずがなかったのだ。
「怪我はさせたくない。大人しく捕まってくれるな?」
遠藤にそう言われ、この状況では頷くしかできなかった。
(カイジ、ごめんね。あなたと平穏に暮らしたかったのに、私のせいでまたギャンブルに巻き込んでしまうなんて…。)