恋愛弱者が通ります
無言──かと思えば偶然か否か眼鏡を白く曇らせながらほんの少し顔を背けるので、これは。
「おっまたせー!」
形容し難い空気に喝を入れるかのような快活な声にロックマンもジョーカーも同じタイミングでそちらへ顔を向けた。見れば今にも音符が飛び交いそうな満面の笑顔で大きな紙袋を両手にそれぞれ提げたパックマンの姿と……後ろには。
「ほら」
覗き込もうとする視線の流れに気付いたパックマンは自身の背に縮こまりながら身を隠そうとするその人を肘で小突いて追い出す。
「もったいないだろ」
「……ぁい」
そろそろと気恥ずかしそうに現れたのは案の定。
「ミカゲ……」
白いニットに黒のチェスターコート、お馴染みのマフラーはグレーのチェック柄。下は薄手に見えて防寒性の高いツイード素材のパンツといった細身の体を生かした上品且つスマートな着こなし。ファッションだけでなく髪もある程度は整えて貰ったのか成る程元々の顔の良さも相俟ってこれがなかなかによく──出来ている。
馬子にも衣装だなどと口を滑らせかけたロックマンだったが隣を傍目にその口を閉ざした。小さく笑みを零してパックマンとアイコンタクト。
「上出来じゃないか」
「パックマン、センスあるので」
隊長基恋人に直々に褒められたとなれば今が人の形をしているとはいえ鼻が高くなるというもの。
「てーか持ってよ荷物」
「それとこれとは話が別だ」
「ええー」
と言ったのも束の間。
「冗談だよ」
紙袋を一つ掻っ攫われて。
「こうしないと手を繋げないだろう?」
そんなことを言うものだから。
「……さ」
永遠に勝てない。
「行こうか」