恋愛弱者が通ります



あれよあれよという間に店内奥の試着室の中に押し込まれてカーテンを閉められる──まさか自分には選ぶ権利もないのか着せ替え人形じゃないんだぞ等といった文句は次にカーテンが半分開いた瞬間喉につっかえて。

「まずこれね」
「お、大きさは」
「細いから大丈夫っしょ」

それだけ言って再びカーテンを閉められたのでミカゲは押し付けられた服を恐る恐る端と端を摘みながら広げた。次いで背後の鏡を振り返ってあてがってはみたが普通に生きていれば無縁も同然であろうデザインである。

「着た?」

かと思えばもう次の服を持ってきた様子。

「ぃいっ今から着るところで御座る」
「早くしろよな」
「……でも」

口をもごもごさせるミカゲに。

「おふっ!」

容赦なく追加の衣類が投げ込まれる。

「着替えないと一生ここから出さないからな!」
「お……横暴で御座るぅ……」


その一方で店の外では太陽が出ているとはいえ決して暖かいとも言えない気温の中待たされている二人の男の姿があった。

「隊長」

上司と二人きり。沈黙に堪え兼ねたのか否か口を開くジョーカーにロックマンは視線を上げた。

「聞きたいことがある」
「珍しいな」
「大したことじゃない」

ジョーカーは白い息を吐いて首に巻いたマフラーを引き上げるとジャケットに手を突っ込みながらゆっくりと口を開く。

「恋人の。……好きな所とか」

ロックマンは思わず目を丸くする。しかしながら誰より賢いのがこの正義部隊を務める隊長である──彼が内側に仕舞い込んだ望まれた展開というものを先読みしてかほくそ笑みながら。

「……惚気たいのか?」
 
 
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