恋愛弱者が通ります
レイアーゼ繁華街にあるショッピングモール。
「イヤーッ!」
けたたましい叫び声に振り返る通行人。
「何が"イヤ"だ、散々恥かかせやがって!」
声の主の腕を掴んで引くのは。
「こっちに来い!」
パックマンがこめかみに青筋を浮かべながら無理矢理に連れ込もうとしているのはどうやら小洒落たメンズ服店のようである。先程から抵抗して意地で踏みとどまっているミカゲは首をぶんぶん。
「お節介で御座るっ!」
「おまえっ、人の気遣いを迷惑みたいに!」
「分かってるじゃないで御座るかぁっ!」
「あーもー怒った絶対逃してやらないからな!」
どうやらパックマン、ミカゲの一昔前のオタクよろしくといった見た目に痺れを切らしたのだろうイメチェンさせるべくこの場所に引っ張り出してきた様子。直前になって気付いて抵抗する様はさながら病院を嫌がるペットとその飼い主といったところだろうか──子どもが怪訝そうに指差すのをお馴染み母親が眉を寄せて見てはいけませんと耳打ちしてるのが何というか。
「……止めないのか?」
傍観していたジョーカーが訊ねるとロックマンはにっこりと笑った。
「何でもかんでも止めれば良いという話でもないさ。現にアレを見たところで誰が二人を正義に準ずるその戦士だと予想するだろう」
最もそれらしいことを言っているようで大変失礼なことを言っているような──はたまた木を隠すなら森の中とでも言いたいのだろうか。
「素性がばれた時の風評被害については」
「はは。それを切り捨てるだけの覚悟がなくては隊長なんて役職が務まるもんか」
……笑顔で述べているようでやっぱりこの状況をあまりよく思っていないんじゃないか、この人。
「お。今日はお友達と一緒ですか?」
こんな騒ぎ方をしていれば当然店の中から手の空いた店員が顔を出す。途端に声を潜めるどころか息まで止めてパックマンの後ろに隠れて服の裾を掴みながら縮こまるミカゲにパックマン本人も呆れたように息を吐き出しながら。
「後輩。こいつ私服ダセーから連れてきたの」
「あー個性的ではいらっしゃいますね」
グサリと突き刺さる特大矢印。
公開処刑である。
「お店、入られます?」
「そのつもり。ほら行くよ」
ミカゲは助けを乞うようにしてジョーカーを振り返ったが笑顔で見つめるその隣のロックマンに怖気付いたのだろう、観念したように。
「……はい……」