恋愛弱者が通ります



正義部隊の仕事は戦うことばかりが全てという訳ではない。死屍累々だの屍山血河だの血生臭い結末を辿らず穏便に平和的に済まされるのであれば誰もがそれを望むことだろう。

営業だってその内のひとつ。主に中小企業に頼まれてなかなかに頑なで自我が強く折れてくれない頭の堅いお偉方をターゲットに関係に亀裂が入る前に宥めて回っているようなものだ。やっている事は保育士だとか介護士と似た役回りだとか何とか言われているが蓋を開ければ極道も腰を抜かすような恐喝紛いの行為がそこそこ目立つ。

それでも、まあ。

死ぬよりマシなのだろうが。


「よく信じたな」

歩きながらジョーカーが言った。脅しのことを指しているのだろう。

「ま、こいつの目シャレになんないし」
「んなっ……」
「そりゃあ、信じるさ。もはやこの日の為だけに嘘をついてこなかったまであるからな」

確かに──他の誰かが言うのであればやれるものならやってみろと楯突いてしまいそうなものだが"あの"ロックマンが裏表のない笑顔で話し合いの最中さらりと述べたなら虚偽であれ真実であれ誰でも震え上がったことだろう。

「オオカミ少年にはなれないで御座るな」
「ならないさ。真実になるのだから」

ほらまた恐ろしいことを言う。

「営業で回るとこって今ので終わり?」
「……そうだな」

自動ドアを抜けてビルの外に出ると太陽はちょうど真上にあった。これだけ照っていても肌の焼けない涼しい季節になったものである。

「じゃーご飯食べに行こうよ」

パックマンは提案する。

「先輩らしく奢ったげるからさ。……ししっ!」
 
 
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