恋愛弱者が通ります
その一方で行列から少し外れた位置で待機していたロックマンとパックマンは不自然にざわつく音や声といったものに同時に顔を上げるとそちらを振り返った。それがあからさまに二人を見送った方向なので怪訝に思いながら顔を見合わせる。
と。──次の瞬間。
「ホァギャアアーッ!」
なんとまあ清々しい叫び声だこと。
「みか、」
言いかけて横切ったそれに言葉が切れて、
「ひえっ!?」
硬直するパックマンの隣でロックマンが器用にも人差し指と中指で挟んで捕らえたそれは紛うことなき──水で生成された苦無である。
「あのバカ何やって──どぉっ!?」
抗議の隙すら与えられず苦無を投げ捨てたロックマンが頭を押さえ付けるような形で無理矢理にパックマンを地面に伏せさせたが直後そのまま呑気に立っていれば直撃不可避だったであろう今度は水で生成された大きな手裏剣が空を切る。
「こここっ公衆の! 面前でッ!」
大パニックの様子のミカゲは瞳の奥を嵐のようにぐるぐると掻き回しながら。
「破廉恥で御座るうううっ!」
大暴れ。
「あんっっっの馬鹿……!」
「馬鹿ども、だ」
冷静に返したロックマンが視線を遣る先では至極楽しそうにそれでいて軽やかにミカゲの攻撃を躱すジョーカーの姿があった。それでもこの季節のムードに浮かれた人々が大道芸か何かだと勘違いしたのやらどうにも盛り上がっている様子なのは不幸中の幸いとでも言うべきか。
「何をどうすりゃさっきの今でああなんだよ!」
「キスでもしたんじゃないか」
「その程度のことで取り乱すなよあのクソ陰キャ!」
高級レストランでワイングラスを交わすとか。
夜景を眺めながら甘く囁き合うとか。
「ミカゲ」
そんな夢色ときめく風情なんて。
「フギャーッ!」
今後一生無理すぎて草!
「あーあーあー……!」
人混みの奥で飛び交う水飛沫と武具に混ざってペルソナを召喚する声まで聞こえた気がする。留まることを知らない惨状にもはや言葉も出てこないパックマンの横でロックマンは頭を抱えて大きな溜め息を吐きながら。
「……子どもには些か早過ぎたな」
どうしてその場が収まったのかはさておき。
後に二人がロックマンにこっぴどく叱られたのは言うまでもなく。
end.
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