恋愛弱者が通ります
物事の分別というものがあやふやなのが子どもというものだ。自分だってその括りであるに他ならないが現実の写しとも言えようネットの世界に長く入り浸ってきた自分の方が世間的観点から言う正しい選択を熟知している。
「鳴らさないのか?」
いやいや、……話を聞いていたのだろうか。オタク用語を使って罵倒しかけたところを視線を感じて呑み込みながらミカゲは鐘から垂れた紐に恐る恐る手を伸ばす。こういった迷信はもちろん信じてなどいないが自分を願うより誰かを願う方が叶いやすいのだと聞く──比較的自由に活動できる場を設けてもらっているだけでも充分なのだ。
……例えば。今隣に居るこの人に。
本当の幸せが訪れますよう──
「ミカゲ」
鐘の音が鳴り響く。
「ん」
熱くなったり涼しくなったり自分ときたらなんとまあ忙しい生き物だろうと。呼ぶ声に応えてゆっくりと振り向いてみれば影が差して。
「……!?」
は、……は……ぇ?……え?
「……ミカゲは、何を願ったんだ?」
ゆっくりと解放しながら。
「俺は……今が一番幸せだし」
硬直を余儀なくされる此方の気も知らず。
「これが、本当の幸せだと思ってる」
柔らかく微笑みながら。
「……ミカゲも同じだと嬉しいな」