兄さんなんか!
森の中。ルイージは隣の少女をちらり。
「だから別に私は子どもみたいにムキになって先を歩いていたらそのまま兄さんと逸れたとかそういうのじゃないから」
聞いてもいない事をべらべらと。
「……聞いてます!?」
「お兄さんと喧嘩したってこと?」
「べっ……別にそこまで言ってないわよ!」
難しい年頃だなぁ……
「あはは」
ルイージが並んで歩いていた少女はなんと第四正義部隊フォーエス部隊の双子軍師のその妹、ルフレだった。どうしてこんな場所で彼女と鉢合わせたのかは聞かずとも一方的に話してくれたようにどうやら自分と同じ目的で例の洋館を探して森の中へ足を踏み入れたまではよかったもののつい兄の方と口論になってしまい拗ねて先を歩いていたところ物の見事に逸れた、と。
何だか自分の境遇と似通っていて笑おうに笑えないのが何とまあ。とはいえこれで目的が同じともなれば怖いものなしである。何と言っても彼女はフォーエス部隊が誇る天才双子軍師──その妹。妹だ弟だと言って侮ってはいけない。二番手こそ爪を隠した能ある鷹といっても過言では──
「ルイージさんのお兄さんは?」
ふと訊ねられてぎくりと。自分はいいんだよ、とはぐらかそうとしたその時である。
「、?」
急に霧が晴れたのだ。ルイージが顔を向けた先にルフレも釣られるようにして其方を見れば。
「これって」
まさか。も。もしかして。もない。
それこそ確実に。いいやあからさまに。
「ちょ」
重く佇む血色の悪い洋館を前に意を決したように正面玄関に向かって踏み出すルフレにルイージは焦りの声を漏らしたがおろおろと辺りを見回した後。まさか髭を生やした男が年下の少女を相手に遅れを取るわけにもいかず。
「まっ……待ってよ、ルフレ──!」