スキだらけですが、何か?



狭い。色々な匂いがこもっている。

特別嗅覚が優れているはずもないが決して良い気分ではない。かといって変に体を捩ると怪しい目で見られ兼ねないのが満員電車の欠点。男というだけで何処まで配慮しなければいけないんだと内心嘆きながら両手で手摺りに掴まっていると電車が大きく揺れた。途端後ろの男性か女性か検討もつかないとにかく人の体重がのし掛かりミカゲは「ぅぐ」と声を洩らす。

「大丈夫か?」

目の前で吊り革に掴まっているジョーカーが小首を傾げて訊ねた。大丈夫なはずがあるかと嘆きたいところだったがそんな勢いづいた発言が出来るような仲でも状況でもない上に、ミカゲは首筋にかかる息に固まってしまう。

もう! 満員電車というやつはこれだから!


「──ぴぎっ!?」


変な声が出てしまった。

いやいや。いやいやいやいや!?

「へ……へぁ……?」


触られてません?


ちょっと待ってちょっと待って自分純度百パーセントの雄なんですが一体この後ろの方はどのような趣味をお持ちで!? たまたま密着したのかと思えばどさくさ紛れでおられましたか!

「ミカゲ」

ジョーカーが一声呼んだがそれどころでは。

ああもうだから電車は嫌なんだ! 後ろ髪が長いから勘違いしている哀れな説を内心唱えながら目の前にいるジョーカーと目を合わせまいと逸らしながら移動しようとしたその時である。
 
 
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