仲良くなぁれ!



「ジラァ!」

あ。……笑った。

「レッド!」

ルーティが今だとばかりに叫ぶとレッドは帽子の鍔を持ち上げた。ポケモンの事ともなれば百戦錬磨敵なしの彼が視界に捉えてしまえばそれだけで逃れられる筈もない。一歩、力強く足を踏み出して引いた腕を風を切る勢いで振るえばモンスターボールが狙いを定めた獲物に一直線──捕らえて閉じ込める。ボールは落下して床の上、揺れが止まるのも待たずレッドが拾い上げてじっと威圧基見つめればそれは即座に沈黙して。

「お、」

誰かがぽつりと漏らした。

「終わったぁぁぁ……」


斯くして。

ルーティの仲良くしてほしいという願いを叶えるべく奮闘してくれたばかりにラッキースケベが頻発するという目も当てられない現象はジラーチの退場により鎮まったのである。


「だ、大丈夫だったかい……シュルク」
「僕はいいけど、……ルフレは」
「兄さんにも触らせたことなかったのに……」
「これから先だって触らないよ!?」

空気が疲れ切っている。

「羨ましいですねぇ」
「お前、何もなかったのか」
「物欲センサーじゃね?」

そんなやり取りを背にスピカは息を吐く。

「……、ッ!、」

ようやく気付いて手を離した。

「おおおお前終わったんだから手を離せよ!」
「名残惜しくて離さなかったのは君の方だろう」

また。

「満更でもなかったのはそっちじゃねーの?」
「ポジティブで結構。可哀想に」
「可哀想って言うな!」

ルーティは深々と溜め息を吐き出す。

「無理に仲良くしろとは言わないから」


喧嘩は──


「うわぁっ!?」

踏み出せば。バナナの皮ですってんころりん。

「どあっ!?」

巻き込まれたスピカが背中を押されて。


目の前の。ロックマンに。


「あ」


……………………。


「ギャアァアアーッ!?」

叫び声を上げて飛び退くスピカ。即座駆け付けたダークウルフがスピカの唇をハンカチでゴシゴシするので何が起こったのかはお察し。

「テメェ!? どさくさ紛れにリーダーになんてことしやがるッ!?」
「たたたた、隊長、だ、大丈、だ?」
「落ち着くんだパックマン。……大丈夫かい?」

程なくロックマンの硬直は解かれる。がくんと頭を垂れたかと思えばかたかたと肩を小刻みに震わせて。深い影を顔に落としながら頭を上げたかと思えばどす黒いオーラを纏いながら。

「俺が許可する! 総員、奴らを一人残らず消し炭にしろッ!」

一生仲良くしてくれるビジョンが見えない。

命令とあらば喜んで。情け容赦のない攻撃の飛び交う食堂の変わり果てた姿にルーティは呆れて物も言えず。この日たまたま席を外している食堂のヌシことリンクが見たらまた阿鼻叫喚だろうなと思いながらその日一番の溜め息を吐くのだった。



end.
 
 
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