ルフレちゃんは分かりたい
エックス邸──黒煙の立ち込める中庭。
「けほっ」
「大丈夫デスか」
咳き込むゲムヲに訊ねるのはロボットだった。いつもは日向ぼっこだ稽古だ修行だ追いかけっこだと賑わうこの場所も運良く閑散としていたところにこれである。最もこの黒煙は敵による攻撃ではなくひと目見た瞬間反射的に此方から"挨拶"を送った結果によるものだが。
「やだなぁ」
不意に黒煙を跳ね除ける。
「昔はあんなに仲良くしてたのに」
くすくすと不敵に笑みをこぼすのは。
敵対組織亜空軍主将のクレイジーハンドとその兄マスターハンド──!
「残念ながら、データにありません」
「えー壊れてるよコイツ」
何故どうしてこんな所に──なんて自由気儘な神様相手に今の今更言えたものか。このような歓迎を受けてしまえば挨拶には挨拶をといったように臨戦体勢を撤回してくれるはずもない。
「叩いてみたらどうだ」
マスターが笑えば引き金となる。
「それもそうだ、」
次の瞬間。
「──ねっ!?」
目前。
「ッッ!」
機械だからこそ反応出来ただけの話。固く握り締められた拳を勢いよく振り下ろされたがそれより早くロボットは背後のゲムヲを腕に抱えて危機を脱していた。空を切った拳は地面を深く抉り凄まじい音を掻き鳴らす。舞い上がる砂煙の中で赤い灯が揺らいでロボットは次の攻撃を察知した。砂利を踏み込んで回避しようとするも不自然に風の音が止んだ。間に合わない。
「ッチ」
舌打ち。差す影。……顔を上げる。
「駄目ですよ」
その人は明るい声に反して冷たい目で。
「手土産くらい持ってこないと」