苦手なもの



取って食われるものかと冷や冷やしていたルーティだったが、次の瞬間、ロイの口から放たれた台詞には拍子抜けして。

「そっそんなこと?」

ロイの手を離しながら、ルーティは苦笑を浮かべて。簡単に言いやがって、とロイは短く息を吐き出す。

すると、ルーティはサムスの元へ向かい。

「……何かしら?」

不思議そうに小首を傾げるサムス。ルーティは笑みを浮かべ、手を差し出して。

「貸してほしいものがあるんだ――」


所変わって、食堂。

一汗かいて小腹の空いたウルフは、昼食を兼ねて食堂に来ていたのだ。カウンターに立ち、メニューに目を通していると。

「ウルフ」

名を呼ばれ、振り返る。


ぷしゅ


そこにいたのはルーティだった。

そして、ウルフの顔に吹き掛けられたのは、サムスが愛用している香水。

「ふがっ……な、にしやが……」

鼻を押さえるも、狼とだけあって嗅覚の優れているウルフに、香水の匂いは毒で。ふらふらと後退し、その場に座り込む。

その様子を後ろから眺めていたロイとサムスは目を丸くした。――こんな単純なものがウルフの弱点だったなんて。

「あんまりやると怒られるんだよね」

早くも目を回しているウルフに背を向け振り返り、肩を竦めてルーティは笑う。

確かに、見ればウルフは香水を使っている一部の女性を、あまり撃墜していないようだったが。……とはいえ。

「どう思う? ロイ」

本当に苦手なものは。

「克服すんのは難しそうだな」

香水じゃないのかもしれない。



end.
 
 
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