恋泥棒の巣窟!
「どうかしましたか」
溜まり場に気付いて声を掛けてきたのは。
「ベレスさん」
「忘れ物を届けにきたみたいで」
カンナとカムイが口々に言うとベレスはトゥーンに差し出された本を見た。暫くじっと見つめた後で気付いたように後ろから付いてきた人物を振り返って口を開く。
「……兄さんの魔導書では」
長身の男性──ベレトは無表情ながらもきょとんとした様子で歩み寄って本を確認する。
「そのようだ」
「しっかりしてください」
淡々としたやり取り。
「あと一冊だね」
「何とか片付きそうだな」
リュカの後に安堵したようにネスが呟くと。
「……ん」
視線に気付いたベレトが片膝を付く。
「君は。剣士のようだが」
「え、あっ」
トゥーンは不意打ちにたじろぐ。
「見せてみなさい」
本のことかと思って差し出したもののどうやら違ったらしく本を持っていない方の手を取られてしまった。そのまま小さな手のひらを優しく触れてそれこそ細部まで確認するかの如く見つめて。
「……良い手をしている」
柔らかく──笑み。
「弟子に欲しいくらいだ」
「兄さん」
「分かっている」
釘を刺される前に本を受け取って立ち上がる。
「またおいで」
最後にぽんと優しく頭に手を置いて。
「次の機会に教えてあげよう」